「だましたの?」

「だって、ああでも言わないとあなた来てくれないでしょう? おせっかいな柴又さんについて来られても迷惑だったし」

 悪びれなくそう言った彼女から逃れようとするけれど、ただでさえ小柄なわたしは力が弱い。

 同じ年の女の子からも自力じゃあ逃げられなかった。


「キーキー!」

 見かねたようにコタちゃんがポケットから出て来てくれたけれど、彼女に飛び掛かると同時に突然ピンポイントで雨に降られてびしょ濡れになる。

 水を吸った白い毛が重いのか、そのまま床に落ちてしまった。


「コタちゃん!?」

「君はちょっとそこで大人しくしていなさい」

 そういえば彼女は雨女のあやかしだった。

 室内でも周囲の水蒸気を使って少量の雨を降らせることが出来ると自己紹介のとき言っていたっけと思い出す。


「心配しなくてもちょっとお話するだけよ。だから大人しく付いてきて」

「……」

 了承の言葉は口に出来なかったけれど、彼女に引かれるまま付いて行く。


 危害は加えないという言葉に本当だろうかと疑う気持ちもある。

 でも、本当でも違っていても、わたしの嫌な予感は消えてくれない。


 だって、この状況には覚えがある。