喫茶店から出る頃には、随分と日が沈んでいた。
赤焼けた夏空がどこか懐かしくて、寂しくて――――。
二人で歩く帰り道も久しぶりで、妙に浮ついていたのかもしれない。
揺れた手が触れ合う。
そのまま小指を絡めて、私たちは手を繋いだ。
幼い日々の延長線上に、今の私たちがいるのであればそれはまるで必然のような気持ちがした。
そのまま住宅街の入り組んだ裏路地に進んでいく。
コンクリートの壁を背にして、いとも簡単に私たちはキスを交わした。
かさついた理玖の唇がほのかに熱を孕み、不覚にも泣きそうになった。
何度も何度も重ね合わさって、呼吸が乱れていく。
慰めに似たその行為はどこまでも間違っていた。
正解なんかじゃない、そう解っていても尚私たちはキスを深めた。
理玖の舌が私の唇を割って入る。
火照った頬に赤い夕焼けが落ちている。
理玖の長い睫毛が綺麗な影を落として、それは紛うことなき芸術そのものだった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
荒い呼吸が混ざって、理玖の目がじっと私を見つめる。
いつの間に泣いていたのだろう。
理玖の人差し指が私の目尻を拭った。
彼は切なそうな表情で笑った。
「凛子、ありがとな」
それだけ言うと、彼は私の手を再び握り、また表通りに戻っていった。
夕焼けに照らされた幼馴染の背中を見て思う。
菫さんに一番に憧れていたのは絶対に理玖だろう。
菫さんに一番影響を受けたのも理玖で、だからこそ彼は菫さんの一番の被害者にもなってしまったのだ。
「綺田菫」という芸術家に人生を狂わされた男の背中を、私はちょっぴり愛おしく感じた。
たぶん可哀想だね、私たち。
勝手に仲間意識を持ったりなんかしちゃって。
我ながらなかなかに気持ちが悪い。
そんな帰省の始まりだった。