神殺しのクロノスタシスⅣ

既に怪しい匂いはするが、何とか指輪の交換も終わり。

色々と端折って、次はようやく。

シルナ・エインリーお待ちかねの、ウェディングケーキ入刀。

それにしても、急遽用意したとは思えない、立派なウェディングケーキだ。

ベリクリーデと二人でナイフを持ち、ケーキを切り分け。

お互いにケーキを食べさせ合う、所謂ファーストバイトを行う。

「ほらベリクリーデ、口開けろ」

「あーん」

もぐ。

よし。

「美味いか?」

「もぐもぐ。美味しい」

そりゃ良かったな。

「ジュリスにもあげるー」

「はいはい」

小っ恥ずかしいが、ベリクリーデにケーキを食べさせてもらう。

これも必要な儀式だからな。

もぐもぐ。

うん、普通に美味い。

「ケーキ…。やっぱりケーキは大事だもんね!はー!私も早く食べたい!」

「ちょっと黙ってろシルナ。風情がなくなるだろうが!」

外野がなんか騒いでる気もするが、気のせいだと思おう。

ウェディングケーキ入刀が終わったら、またしても色々端折って、あとはブーケトスのみだ。

ようやく、この茶番儀式が終わる、という開放感の為に。

俺はこのとき、オレンジ小人が微妙に満足していなさそうな顔をしていることに、気づいていなかった。
控え室での言動の為、不安の残るブーケトスだが。

「良いかベリクリーデ、軽くだぞ。軽く投げるんだ。ふわっと投げるだけだぞ」

何度も小声で、そう言い聞かせる。

キャッチする側の女性陣も、緊張の面持ちである。

これ、キャッチ出来なかったら、折角のお洒落なブーケが、べシャッ、と地面に落ちることになるからな。

それだけは避けたい。

風情も糞もあったもんじゃないぞ。

ので、本来ならブーケトスには参加しないはずの男性陣も、後ろに控えている。

いざとなったら彼らが取ってくれる。

少なくとも、落とすよりマシだ。

あと少しだ。これが終われば、メルヘン結婚式も幕を閉じる。

最後の最後で抜かるなよ。ベリクリーデ、頼むから。

「じゃあ投げるよー」

よし。

「えーい」

ポーンっ、とベリクリーデはブーケを高く放り投げた。

ブーケが、花びらを散らしながら空高く舞い上がった。

こ、の、馬鹿…!

「加減をしろって言っただろうがっ!」

「え?加減したよ?」

加減(当社比)。

お前の加減は、一般人にとってやり過ぎなんだよ!

空高く舞い上がったブーケは、太陽の日差しのせいで、眩しくて見上げられなかった。

ヤバい、何処だ落下地点は。

女性陣は、それどころか男性陣も、何とか落下地点を探そうと、揃って空を見上げながら千鳥足。

滑稽過ぎる。

ブーケを投げてから落下するまでのほんの数秒が、永遠にも近く感じられた、そのとき。

「ふっ!…つ、はぁ…」

空から落ちてくるブーケが、誰かの手の中にキャッチされた。

危ういところだったが、ちゃんと誰かが掴んでくれたのだ。

クュルナだった。

もう、泣いて感謝したい。

よく取ってくれた。

「ふぅ…。…取れました」

「よくやったクュルナ…!」

「良かったぁ…。次、結婚式を挙げるのはクュルナちゃんかな?」

これには、シルナ・エインリーもこの軽口。

ブーケトスの言い伝えによると、そうなるな。

「クュルナは強いし、美人からな。お眼鏡に適う相手は、そうそういなさそうだがな」

と、羽久・グラスフィアが苦笑いで言った。

無事に結婚式を締め括ることが出来て、羽久もだいぶ、肩の荷が下りた気分らしい。

「い、いえ。私は羽久さんなら…」

と、クュルナがブーケを抱えて、ぼそぼそと呟いてみたが。

「?何か言ったか?」

「…いえ、何でもありません」

クュルナよ。

羽久のこの調子じゃ、お前の結婚式は、まだまだ先のようだな。

羽久の朴念仁ぶりにも呆れるが、これはこれで、微笑ましく結婚式を締め括ることが出来た。

はー、良かった。もうこんな緊張は二度としたくな、

「…何だか違うんだよなぁ」

…ここに来て。

オレンジ小人が、とんでもないことを言った。
…今何て言った?この小人野郎。

「ロマンチックさが足りない。こんな結婚式じゃあ、『喜び』を感じられないよ」

と、宣うオレンジ小人の持つ小瓶には。

オレンジ色の液体が、小瓶の四分の三くはいの量を満たしてはいたが、残りの四分の一は、依然満たされないまま。

嘘だろ。

ここまでしたのに、まだ足りないと?

「何が…何が不満なんだよ?」

この上なく頑張っただろ。俺も、ベリクリーデも。

しかし。

「不満だね。だって、この式では…一番重要な…一番肝心な…誓いのキスをしてない!」

ぎくっ。

この野郎…そこに気づきやがったか。

いや、まぁ気づくよな。

何よりメルヘンとロマンを追求する小人にとって、結婚式の一大イベントである、誓いのキスのシーンが飛ばされたことは、当然不満だろう。

それは、俺も薄々勘づいてはいたよ。

誓いのキス省いたけど大丈夫だろうかって、ちょっと不安でもあったよ。

何とか、なぁなぁにして流せるかと思ったが…そこまで甘くなかった。

案の定咎められたか。

だけどな、でも…いくらなんでも。

誓いのキスだけは、お遊戯でやっちゃ駄目なことだと思ったんだよ。

「それに、なんか二人共ぎこちないよね?新婦はともかく新郎が」

ぎくっ。

こいつ…間抜けな顔してる癖に、案外目ざといぞ。

「これってもしかして、本当の結婚式じゃないんじゃないの?」

…お前。

なんて観察眼なんだ…。

いや、でもな?お前が勝手にペア割りして、勝手に契約の指輪を嵌めてきたんだからな?

本当の結婚式になる訳ないだろうよ。強制結婚じゃないか。

しかし、そんな道理は、小人には通用しない。

「こんな結婚式じゃ、僕は満足しないね。ちゃんと、互いが愛し合う結婚式じゃないと。愛の感じられない結婚式なんて、それは結婚式じゃない!」

駄々っ子のように断言して、ふいっ、と顔を背ける小人。

…不味い。

「そ、そんな…。そんなことはないですよ。お二人共、ちゃんと永遠の愛を誓ったじゃないですか?」

シュニィが、半ば青ざめて小人を説得しようとするも。

小人は、こんな結婚式では合格を出す訳にはいかないとばかりに、ふんぞり返って無視。

…良い度胸じゃねぇか。

そうやって、俺達に結婚式二度目を強いるつもりか。

しかし今回の場合、一度目が二度目を上回ることは、決してない。

何故なら、もう既に一度、ドレスも見せたしケーキも見せている。

一度見た時点で、二度目へのハードルは爆上がりなのだ。

このまま、何とか二度目を開催したとしても、OKが出る可能性は低い。

ならば、どうするか。

ここで、何とかゴリ押しするしかないってことだ。

誰もが青ざめたそのとき、俺は全力で虚勢を張り。

「おい、誰が愛し合ってないだって?」

やけっぱち、かつ渾身の…悪あがきを始めた。
「愛し合ってないなんて、お前が勝手に決めんなよな」

「だって君、ちっとも新婦のことを愛してないじゃないか」

その通りだよ。

愛してはいない。愛してはいない…けどな。

「適当な言いがかりはやめてもらおうか。好きでもない女と…結婚式なんかする訳ないだろ」

今だけは、全力で愛させてもらうぞ。

俺は、これみよがしにベリクリーデの肩を抱いた。

ここでベリクリーデが逃げたら、もう取り返しがつかないところだったが。

生憎ベリクリーデは、きょとんとしながらも、逃げることはなかった。

よし、そのまま良い子でいてくれ。

後で、好きなだけ殴られてやるから。

「俺はちゃんと、ベリクリーデを愛してるよ」

「…本当に〜…?」

胡散臭い顔しやがって。

「あぁ。さっきは…その、小っ恥ずかしいもんだから…ぶっきらぼうな振りしてただけで…。本当は死ぬほど愛してるんだよ」

こうなったらやけっぱち。

背に腹は代えられない。

自分でも、何言ってんだ俺、とは思うが。

「誓いのキスが見たいんだったな?良いよ、証明してやるよ、俺がちゃんとベリクリーデを愛してるってことをな」

「え?」

オレンジ小人が、ぽかんとしているのを尻目に。

俺はベリクリーデの顎に軽く指を当てて、こちらを向かせ。

そのまま、グロスの光る唇に口付けした。

「ひょはっ!」とかいう、シルナ・エインリーの奇声や。

「あっ…」という、シュニィのちょっと恥ずかしそうな声や。

「…?」と、キスされているのにぽやんとしている、ベリクリーデの視線が痛かったが。

何度も言うが、背に腹は代えられない。

誓いのキスを見せて満足するなら、俺が後でベリクリーデに殴られるくらいは、安いものだ。

「う、うわぁ…!結婚式だ…誓いのキスだ!『喜び』が…『喜び』が溢れてるよ!」

オレンジ小人の、この現金なこと。

誓いのキスを見せられるなり、ぐんぐんと小瓶の中身が溜まり。

あっという間に、溢れ出る寸前。

「これぞ『喜び』…!白雪姫に捧げるに相応しい感情だ!」

と、小人が叫ぶなり。

俺達を戒めていた、茨の指輪が…霧のように、消えてなくなった。
…九死に、一生を得る。

とは、まさにこのこと。

誓いのキスで…救われる命もある。

「…やっぱりさぁ。そのまま結婚しちゃえば良いんじゃね?」

何とか一命を取り留めた俺とベリクリーデに、キュレムがポツリと溢した。

「お前、ふざけんなよ…。こっちは命懸かってるんだよ…」

危うく死ぬところだったんだからな。分かってるか?

そんな浮ついた気持ちになれるか。

それなのに、キュレムは。

「いやー…。割とお似合いだと思うけどねー」

お前、他人事だと思って呑気な。

あ、そうだそれよりも。

「ベリクリーデ…悪かったな」

「…ジュリスにキスされちゃった」

あ、うん…。

「しかも初めて。ナンバーワンキスだ…」

ファーストキスだろ。何だよナンバーワンって。

いや、言いたいことは分かるけど。

「悪かったと思ってるよ。殴って気が済むなら、好きなだけ殴ってくれ」

「何でジュリス殴るの?」

「そりゃお前…。予定にもないのに、乙女のファーストキスを奪ったからだろ…」

こんな、色気も何もないシチュエーションでさ。

女子にとっては、一生モノの傷になるだろう。

ファーストキスがこんな、好きでもない男に奪われるなんて。

本当に悪かったと思ってるよ。

でも、死ぬよりはマシだと思ったから。

「ジュリスなら嫌じゃないよ」

それなのに、ベリクリーデはこの反応。

…泣き叫んでビンタされても、文句は言えないと思ったんだけどな。

「無理しなくて良いんだぞ?」

「無理なんかしてないよ。他の人だったら、何だか嫌だけど…でもジュリスだから良いよ」

「…あ、そう…」

何で、俺なら良いのかは知らないが。

まぁ…傷つけたんじゃないんなら、良かった。

「…やっぱり結婚すれば?」

「冗談だろ…」

何故か、真顔で結婚を促すキュレムを、力なく一括して。

ともあれ、俺とベリクリーデは、無事に『白雪姫と七人の小人』の試練を乗り越え。

生存が、確定したのであった。
―――――――…ジュリスとベリクリーデの、命を懸けた超ロマンチック(?)な結婚式から、およそ二日。






『白雪姫と七人の小人』から、新たなる刺客が二人、やって来た。

「やぁ、僕は『怒り』の小人」

「僕は『悲しみ』の小人だよ」

「君達に、『怒り』を」

「『悲しみ』を」

「教えてもらいに来たよ!」

…。

…およそ。

怒りからも、悲しみからも程遠い、軽いノリで。





今度は、赤い服を着た「怒り」の小人。

そして、対象的に青い服を着た、「悲しみ」の小人が。

それぞれ、空っぽの小瓶を持って現れた。

そろそろ来るだろうと思ってたから、そんなに驚きはしない…つもりだったが。

やはり、いざ目の前に現れると…。

…やっぱりムカつくな。

こいつらは、俺を腹立させる天才だよ。

この時点で、もう既に「怒り」なら充分教えられる気がする。

「ほう、やっと来ましたか…。良いですね、怒りと悲しみ。僕はどっちでも良いですよ」

「う、うん…。契約…望むところだ」

いつ小人が出てきても良いように、棺桶の傍に控えていたナジュと天音が、小人の前に出る。

そして。

「我々がいることも、お忘れなきよう」

「僕と契約しても良いよ」

同じく棺桶の傍に控えていた、聖魔騎士団魔導部隊大隊長の、クュルナもエリュティアも同様だ。

ついでに言うなら、俺もな。

かかってこい。

「ふーん…。君達威勢が良いね〜」

「誰にしようかな?」

怒りと悲しみの小人は、しばし俺達を品定めするように眺めた後。

「よしっ、僕は君にするよ」

「僕は君に決めた!」

まるで、今晩の献立でも決めるかのような軽いノリで。

クュルナとエリュティアの指に、茨の指輪が巻き付けられた。

赤い服の、怒りの小人がクュルナに。

青い服の、悲しみの小人がエリュティアに。

七日後に迫った、死の刻限。

…こいつら…!

「おい、今度は何をさせるつもりだ?」

のっけから、俺は喧嘩腰だった。

怒りを教えろ、悲しみを教えろと言うなら話は早い。

とりあえず、逆さに宙吊りにして振りまくってやる。

そうすれば、怒りも悲しみも感じるだろう。

と、俺はなかなかに過激なことを考えていたが。

「何をすれば良いんですか、私は」

「悲しみって…どう教えたら良いの?」

契約を交わした当人である、クュルナとエリュティアは、意外と冷静であった。

騒いでいるのは俺だけか。

すると。

「君達は、何もしなくて良いんだよ」

「そうそう。ただ、感じてくれれば良いんだ」

「君は、怒りを」

「君は、悲しみを」

「それぞれ感じてくれれば、勝手に瓶はいっぱいになる」

「七日間、ずっとね」

小人共は、交互にこう説明した。

それだけでも充分ムカつくが。

七日間…ずっと、だと?
これまでは、俺達の努力次第で、七日間の期限を待たずに解放されていたが。

今回は違う。

こいつら今、七日間ずっと、って言ったぞ。

つまりクュルナとエリュティアを、七日間ずっと拘束し続けるってことか?

「そんなことしなくても…教えれば良いんだろう?お前達が望む…怒りや悲しみを」

「悪いけど、僕達には僕達のやり方があるから」

「そうだよ。君らに勝手に決められる筋合いはないね〜」

ムカッ。

それを言うならこっちだって、お前らに、勝手に決められる筋合いはないっての。

調子に乗りやがって。

「それに、他の小人の試練より楽だよ?」

「だって、君達は何の努力もしなくて良いんだから」

「そうだよ。ただ怒って、悲しんでくれれば良いだけ」

「その為のお膳立ては、僕達がしてあげるからね」

…何だと?

言ってる意味が、よく…。

と、思ったそのとき。

「わーっ!きゃーっ!」

シルナが、素っ頓狂な悲鳴をあげた。

何事かと思って振り向くと。

ケーキボックスを持ったシルナが、床にすってんころりんと転んでいた。

ボックスから飛び出たケーキが、べちょっ、とクュルナの服と髪を汚していた。

…何やってんだ?

一瞬にして、クリームまみれになるクュルナ。

「何をやってんだよ、この馬鹿シルナは?」

「ご、ごごごごめんクュルナちゃん!えぇ!?ちょ、私も分からないんだよ!な、何だか、いきなり足元が滑って…!転んだと言うより、転がされたみたいな…」

はぁ?何だその言い訳は。

「し、しかもそのケーキ…エリュティア君にあげようと思ってた奴…!」

そうなの?

エリュティアにあげるはずのケーキが、ぐちゃぐちゃになって潰れ、クュルナの服を汚した。

エリュティアも、クュルナも不幸になる展開である。

更に。

「で、でもお茶は無事だから!お茶飲んで落ち着こっ、ね?美味しい紅茶淹れたから、ほら」

シルナが、慌ててフォローの為に紅茶のティーカップを二人の前に出す。

が。

クュルナがティーカップを手にした瞬間、落としてもいないのに、パリーン、と割れるティーカップ。

熱い紅茶の水が、クュルナの袖をびしゃびしゃに濡らす。

そして、一方のエリュティアは。

「むぐっ…!?げほっ!!げほっ、えほっ…うぐっ…えほっ、ごほっ、ごほっ」

紅茶を一口飲んで、盛大に噎せていた。

「え、エリュティア?大丈夫か?」

どうした、器官に入ったか?

「しよっ、げほっ…。ごほっ、し、しおっ」

しお?

「し、塩っ、入ってる。しょ、しょっぱ…。げほっ、ごほっごほっ」

塩!?

紅茶に塩!?

「シルナ!?お前塩入れたのか、エリュティアの紅茶に!」

「えぇぇ!?そんなはず…。…あ!何で!?砂糖入れてたはずなのに…塩になってる!!」

慌ててシルナが引き出しを確認すると、いつもならスティックシュガーが山程入っているはずの場所が。

何故か、スティックソルトにすり替わっていた。

何だスティックソルトって。聞いたことないぞ。

これは…もしかして。
「ごめんね!はい、これは大丈夫だから。はい、これチョコ」

シルナが、急いでケーキの代わりに詫びチョコを出す。

が、

「…何だかこれ、一口齧られてるんですが…」

「えぇぇ!?」

クュルナが摘んだチョコは、何故か端っこがちょこっと欠けていた。

ネズミに齧られたみたいに。

更に、エリュティアは。

「もごっ…!?げほっ、げほっ!」

また噎せてる。

「大丈夫かエリュティア。しっかりしろ、何があった?」

「からっ…。辛い、これ…辛いっ…ごほっ」

辛い?チョコレートが?

よく確かめてみると、エリュティアの齧ったチョコレートの中には。

いつぞや、元暗殺者組が仕込んでいた、例のデスソースが。

まさかそんな。いつの間に、誰がこんな陰湿な悪戯を?

やっぱり、これは…。

よもやと思って、小人共を見ると。

奴らは、にやにやしながらこちらを見ていた。

よく見たら、それぞれの小瓶の底に、それぞれ赤い液体と、青い液体が溜まり始めていた。

あれが…奴らの感情ゲージなのか。

「お前らの仕業なのか?これ…」

「うん」

「そうだよ」

この野郎、悪びれもせず。

つまりこれは、全部この小人共の仕業で。

意図的に、クュルナとエリュティアに不運が起きるよう、操作しているのか。

クュルナは怒りを、エリュティアは悲しみを感じるように。

「この調子で、七日間じっくりかけて、僕は怒りを…」

「僕は悲しみを、君達に教えてもらうからね」 

…最低だ。

そして陰湿だ。

もう、既にこの時点で怒りも悲しみも感じてるよ。

「大丈夫。瓶がいっぱいになったら、ちゃんと解放してあげるからさ」

「そうそう。君達は、ただ感じてくれるだけで良い。楽なものでしょ?」

この小人、もう何回もぶん殴ってやりたいと思ったことだが。

やっぱりぶん殴ってやりたい。

何が楽なもんだ。ふざけるのもいい加減にしろ。

「この調子で、あと七日間…頑張ってね〜」

小人共に、へらへらと笑われ。

俺はこいつらをぶん殴りたい衝動を、必死に堪えるのだった。