既に怪しい匂いはするが、何とか指輪の交換も終わり。
色々と端折って、次はようやく。
シルナ・エインリーお待ちかねの、ウェディングケーキ入刀。
それにしても、急遽用意したとは思えない、立派なウェディングケーキだ。
ベリクリーデと二人でナイフを持ち、ケーキを切り分け。
お互いにケーキを食べさせ合う、所謂ファーストバイトを行う。
「ほらベリクリーデ、口開けろ」
「あーん」
もぐ。
よし。
「美味いか?」
「もぐもぐ。美味しい」
そりゃ良かったな。
「ジュリスにもあげるー」
「はいはい」
小っ恥ずかしいが、ベリクリーデにケーキを食べさせてもらう。
これも必要な儀式だからな。
もぐもぐ。
うん、普通に美味い。
「ケーキ…。やっぱりケーキは大事だもんね!はー!私も早く食べたい!」
「ちょっと黙ってろシルナ。風情がなくなるだろうが!」
外野がなんか騒いでる気もするが、気のせいだと思おう。
ウェディングケーキ入刀が終わったら、またしても色々端折って、あとはブーケトスのみだ。
ようやく、この茶番儀式が終わる、という開放感の為に。
俺はこのとき、オレンジ小人が微妙に満足していなさそうな顔をしていることに、気づいていなかった。
控え室での言動の為、不安の残るブーケトスだが。
「良いかベリクリーデ、軽くだぞ。軽く投げるんだ。ふわっと投げるだけだぞ」
何度も小声で、そう言い聞かせる。
キャッチする側の女性陣も、緊張の面持ちである。
これ、キャッチ出来なかったら、折角のお洒落なブーケが、べシャッ、と地面に落ちることになるからな。
それだけは避けたい。
風情も糞もあったもんじゃないぞ。
ので、本来ならブーケトスには参加しないはずの男性陣も、後ろに控えている。
いざとなったら彼らが取ってくれる。
少なくとも、落とすよりマシだ。
あと少しだ。これが終われば、メルヘン結婚式も幕を閉じる。
最後の最後で抜かるなよ。ベリクリーデ、頼むから。
「じゃあ投げるよー」
よし。
「えーい」
ポーンっ、とベリクリーデはブーケを高く放り投げた。
ブーケが、花びらを散らしながら空高く舞い上がった。
こ、の、馬鹿…!
「加減をしろって言っただろうがっ!」
「え?加減したよ?」
加減(当社比)。
お前の加減は、一般人にとってやり過ぎなんだよ!
空高く舞い上がったブーケは、太陽の日差しのせいで、眩しくて見上げられなかった。
ヤバい、何処だ落下地点は。
女性陣は、それどころか男性陣も、何とか落下地点を探そうと、揃って空を見上げながら千鳥足。
滑稽過ぎる。
ブーケを投げてから落下するまでのほんの数秒が、永遠にも近く感じられた、そのとき。
「ふっ!…つ、はぁ…」
空から落ちてくるブーケが、誰かの手の中にキャッチされた。
危ういところだったが、ちゃんと誰かが掴んでくれたのだ。
クュルナだった。
もう、泣いて感謝したい。
よく取ってくれた。
「ふぅ…。…取れました」
「よくやったクュルナ…!」
「良かったぁ…。次、結婚式を挙げるのはクュルナちゃんかな?」
これには、シルナ・エインリーもこの軽口。
ブーケトスの言い伝えによると、そうなるな。
「クュルナは強いし、美人からな。お眼鏡に適う相手は、そうそういなさそうだがな」
と、羽久・グラスフィアが苦笑いで言った。
無事に結婚式を締め括ることが出来て、羽久もだいぶ、肩の荷が下りた気分らしい。
「い、いえ。私は羽久さんなら…」
と、クュルナがブーケを抱えて、ぼそぼそと呟いてみたが。
「?何か言ったか?」
「…いえ、何でもありません」
クュルナよ。
羽久のこの調子じゃ、お前の結婚式は、まだまだ先のようだな。
羽久の朴念仁ぶりにも呆れるが、これはこれで、微笑ましく結婚式を締め括ることが出来た。
はー、良かった。もうこんな緊張は二度としたくな、
「…何だか違うんだよなぁ」
…ここに来て。
オレンジ小人が、とんでもないことを言った。
…今何て言った?この小人野郎。
「ロマンチックさが足りない。こんな結婚式じゃあ、『喜び』を感じられないよ」
と、宣うオレンジ小人の持つ小瓶には。
オレンジ色の液体が、小瓶の四分の三くはいの量を満たしてはいたが、残りの四分の一は、依然満たされないまま。
嘘だろ。
ここまでしたのに、まだ足りないと?
「何が…何が不満なんだよ?」
この上なく頑張っただろ。俺も、ベリクリーデも。
しかし。
「不満だね。だって、この式では…一番重要な…一番肝心な…誓いのキスをしてない!」
ぎくっ。
この野郎…そこに気づきやがったか。
いや、まぁ気づくよな。
何よりメルヘンとロマンを追求する小人にとって、結婚式の一大イベントである、誓いのキスのシーンが飛ばされたことは、当然不満だろう。
それは、俺も薄々勘づいてはいたよ。
誓いのキス省いたけど大丈夫だろうかって、ちょっと不安でもあったよ。
何とか、なぁなぁにして流せるかと思ったが…そこまで甘くなかった。
案の定咎められたか。
だけどな、でも…いくらなんでも。
誓いのキスだけは、お遊戯でやっちゃ駄目なことだと思ったんだよ。
「それに、なんか二人共ぎこちないよね?新婦はともかく新郎が」
ぎくっ。
こいつ…間抜けな顔してる癖に、案外目ざといぞ。
「これってもしかして、本当の結婚式じゃないんじゃないの?」
…お前。
なんて観察眼なんだ…。
いや、でもな?お前が勝手にペア割りして、勝手に契約の指輪を嵌めてきたんだからな?
本当の結婚式になる訳ないだろうよ。強制結婚じゃないか。
しかし、そんな道理は、小人には通用しない。
「こんな結婚式じゃ、僕は満足しないね。ちゃんと、互いが愛し合う結婚式じゃないと。愛の感じられない結婚式なんて、それは結婚式じゃない!」
駄々っ子のように断言して、ふいっ、と顔を背ける小人。
…不味い。
「そ、そんな…。そんなことはないですよ。お二人共、ちゃんと永遠の愛を誓ったじゃないですか?」
シュニィが、半ば青ざめて小人を説得しようとするも。
小人は、こんな結婚式では合格を出す訳にはいかないとばかりに、ふんぞり返って無視。
…良い度胸じゃねぇか。
そうやって、俺達に結婚式二度目を強いるつもりか。
しかし今回の場合、一度目が二度目を上回ることは、決してない。
何故なら、もう既に一度、ドレスも見せたしケーキも見せている。
一度見た時点で、二度目へのハードルは爆上がりなのだ。
このまま、何とか二度目を開催したとしても、OKが出る可能性は低い。
ならば、どうするか。
ここで、何とかゴリ押しするしかないってことだ。
誰もが青ざめたそのとき、俺は全力で虚勢を張り。
「おい、誰が愛し合ってないだって?」
やけっぱち、かつ渾身の…悪あがきを始めた。
「愛し合ってないなんて、お前が勝手に決めんなよな」
「だって君、ちっとも新婦のことを愛してないじゃないか」
その通りだよ。
愛してはいない。愛してはいない…けどな。
「適当な言いがかりはやめてもらおうか。好きでもない女と…結婚式なんかする訳ないだろ」
今だけは、全力で愛させてもらうぞ。
俺は、これみよがしにベリクリーデの肩を抱いた。
ここでベリクリーデが逃げたら、もう取り返しがつかないところだったが。
生憎ベリクリーデは、きょとんとしながらも、逃げることはなかった。
よし、そのまま良い子でいてくれ。
後で、好きなだけ殴られてやるから。
「俺はちゃんと、ベリクリーデを愛してるよ」
「…本当に〜…?」
胡散臭い顔しやがって。
「あぁ。さっきは…その、小っ恥ずかしいもんだから…ぶっきらぼうな振りしてただけで…。本当は死ぬほど愛してるんだよ」
こうなったらやけっぱち。
背に腹は代えられない。
自分でも、何言ってんだ俺、とは思うが。
「誓いのキスが見たいんだったな?良いよ、証明してやるよ、俺がちゃんとベリクリーデを愛してるってことをな」
「え?」
オレンジ小人が、ぽかんとしているのを尻目に。
俺はベリクリーデの顎に軽く指を当てて、こちらを向かせ。
そのまま、グロスの光る唇に口付けした。
「ひょはっ!」とかいう、シルナ・エインリーの奇声や。
「あっ…」という、シュニィのちょっと恥ずかしそうな声や。
「…?」と、キスされているのにぽやんとしている、ベリクリーデの視線が痛かったが。
何度も言うが、背に腹は代えられない。
誓いのキスを見せて満足するなら、俺が後でベリクリーデに殴られるくらいは、安いものだ。
「う、うわぁ…!結婚式だ…誓いのキスだ!『喜び』が…『喜び』が溢れてるよ!」
オレンジ小人の、この現金なこと。
誓いのキスを見せられるなり、ぐんぐんと小瓶の中身が溜まり。
あっという間に、溢れ出る寸前。
「これぞ『喜び』…!白雪姫に捧げるに相応しい感情だ!」
と、小人が叫ぶなり。
俺達を戒めていた、茨の指輪が…霧のように、消えてなくなった。
…九死に、一生を得る。
とは、まさにこのこと。
誓いのキスで…救われる命もある。
「…やっぱりさぁ。そのまま結婚しちゃえば良いんじゃね?」
何とか一命を取り留めた俺とベリクリーデに、キュレムがポツリと溢した。
「お前、ふざけんなよ…。こっちは命懸かってるんだよ…」
危うく死ぬところだったんだからな。分かってるか?
そんな浮ついた気持ちになれるか。
それなのに、キュレムは。
「いやー…。割とお似合いだと思うけどねー」
お前、他人事だと思って呑気な。
あ、そうだそれよりも。
「ベリクリーデ…悪かったな」
「…ジュリスにキスされちゃった」
あ、うん…。
「しかも初めて。ナンバーワンキスだ…」
ファーストキスだろ。何だよナンバーワンって。
いや、言いたいことは分かるけど。
「悪かったと思ってるよ。殴って気が済むなら、好きなだけ殴ってくれ」
「何でジュリス殴るの?」
「そりゃお前…。予定にもないのに、乙女のファーストキスを奪ったからだろ…」
こんな、色気も何もないシチュエーションでさ。
女子にとっては、一生モノの傷になるだろう。
ファーストキスがこんな、好きでもない男に奪われるなんて。
本当に悪かったと思ってるよ。
でも、死ぬよりはマシだと思ったから。
「ジュリスなら嫌じゃないよ」
それなのに、ベリクリーデはこの反応。
…泣き叫んでビンタされても、文句は言えないと思ったんだけどな。
「無理しなくて良いんだぞ?」
「無理なんかしてないよ。他の人だったら、何だか嫌だけど…でもジュリスだから良いよ」
「…あ、そう…」
何で、俺なら良いのかは知らないが。
まぁ…傷つけたんじゃないんなら、良かった。
「…やっぱり結婚すれば?」
「冗談だろ…」
何故か、真顔で結婚を促すキュレムを、力なく一括して。
ともあれ、俺とベリクリーデは、無事に『白雪姫と七人の小人』の試練を乗り越え。
生存が、確定したのであった。
―――――――…ジュリスとベリクリーデの、命を懸けた超ロマンチック(?)な結婚式から、およそ二日。
『白雪姫と七人の小人』から、新たなる刺客が二人、やって来た。
「やぁ、僕は『怒り』の小人」
「僕は『悲しみ』の小人だよ」
「君達に、『怒り』を」
「『悲しみ』を」
「教えてもらいに来たよ!」
…。
…およそ。
怒りからも、悲しみからも程遠い、軽いノリで。
今度は、赤い服を着た「怒り」の小人。
そして、対象的に青い服を着た、「悲しみ」の小人が。
それぞれ、空っぽの小瓶を持って現れた。
そろそろ来るだろうと思ってたから、そんなに驚きはしない…つもりだったが。
やはり、いざ目の前に現れると…。
…やっぱりムカつくな。
こいつらは、俺を腹立させる天才だよ。
この時点で、もう既に「怒り」なら充分教えられる気がする。
「ほう、やっと来ましたか…。良いですね、怒りと悲しみ。僕はどっちでも良いですよ」
「う、うん…。契約…望むところだ」
いつ小人が出てきても良いように、棺桶の傍に控えていたナジュと天音が、小人の前に出る。
そして。
「我々がいることも、お忘れなきよう」
「僕と契約しても良いよ」
同じく棺桶の傍に控えていた、聖魔騎士団魔導部隊大隊長の、クュルナもエリュティアも同様だ。
ついでに言うなら、俺もな。
かかってこい。
「ふーん…。君達威勢が良いね〜」
「誰にしようかな?」
怒りと悲しみの小人は、しばし俺達を品定めするように眺めた後。
「よしっ、僕は君にするよ」
「僕は君に決めた!」
まるで、今晩の献立でも決めるかのような軽いノリで。
クュルナとエリュティアの指に、茨の指輪が巻き付けられた。
赤い服の、怒りの小人がクュルナに。
青い服の、悲しみの小人がエリュティアに。
七日後に迫った、死の刻限。
…こいつら…!
「おい、今度は何をさせるつもりだ?」
のっけから、俺は喧嘩腰だった。
怒りを教えろ、悲しみを教えろと言うなら話は早い。
とりあえず、逆さに宙吊りにして振りまくってやる。
そうすれば、怒りも悲しみも感じるだろう。
と、俺はなかなかに過激なことを考えていたが。
「何をすれば良いんですか、私は」
「悲しみって…どう教えたら良いの?」
契約を交わした当人である、クュルナとエリュティアは、意外と冷静であった。
騒いでいるのは俺だけか。
すると。
「君達は、何もしなくて良いんだよ」
「そうそう。ただ、感じてくれれば良いんだ」
「君は、怒りを」
「君は、悲しみを」
「それぞれ感じてくれれば、勝手に瓶はいっぱいになる」
「七日間、ずっとね」
小人共は、交互にこう説明した。
それだけでも充分ムカつくが。
七日間…ずっと、だと?
これまでは、俺達の努力次第で、七日間の期限を待たずに解放されていたが。
今回は違う。
こいつら今、七日間ずっと、って言ったぞ。
つまりクュルナとエリュティアを、七日間ずっと拘束し続けるってことか?
「そんなことしなくても…教えれば良いんだろう?お前達が望む…怒りや悲しみを」
「悪いけど、僕達には僕達のやり方があるから」
「そうだよ。君らに勝手に決められる筋合いはないね〜」
ムカッ。
それを言うならこっちだって、お前らに、勝手に決められる筋合いはないっての。
調子に乗りやがって。
「それに、他の小人の試練より楽だよ?」
「だって、君達は何の努力もしなくて良いんだから」
「そうだよ。ただ怒って、悲しんでくれれば良いだけ」
「その為のお膳立ては、僕達がしてあげるからね」
…何だと?
言ってる意味が、よく…。
と、思ったそのとき。
「わーっ!きゃーっ!」
シルナが、素っ頓狂な悲鳴をあげた。
何事かと思って振り向くと。
ケーキボックスを持ったシルナが、床にすってんころりんと転んでいた。
ボックスから飛び出たケーキが、べちょっ、とクュルナの服と髪を汚していた。
…何やってんだ?
一瞬にして、クリームまみれになるクュルナ。
「何をやってんだよ、この馬鹿シルナは?」
「ご、ごごごごめんクュルナちゃん!えぇ!?ちょ、私も分からないんだよ!な、何だか、いきなり足元が滑って…!転んだと言うより、転がされたみたいな…」
はぁ?何だその言い訳は。
「し、しかもそのケーキ…エリュティア君にあげようと思ってた奴…!」
そうなの?
エリュティアにあげるはずのケーキが、ぐちゃぐちゃになって潰れ、クュルナの服を汚した。
エリュティアも、クュルナも不幸になる展開である。
更に。
「で、でもお茶は無事だから!お茶飲んで落ち着こっ、ね?美味しい紅茶淹れたから、ほら」
シルナが、慌ててフォローの為に紅茶のティーカップを二人の前に出す。
が。
クュルナがティーカップを手にした瞬間、落としてもいないのに、パリーン、と割れるティーカップ。
熱い紅茶の水が、クュルナの袖をびしゃびしゃに濡らす。
そして、一方のエリュティアは。
「むぐっ…!?げほっ!!げほっ、えほっ…うぐっ…えほっ、ごほっ、ごほっ」
紅茶を一口飲んで、盛大に噎せていた。
「え、エリュティア?大丈夫か?」
どうした、器官に入ったか?
「しよっ、げほっ…。ごほっ、し、しおっ」
しお?
「し、塩っ、入ってる。しょ、しょっぱ…。げほっ、ごほっごほっ」
塩!?
紅茶に塩!?
「シルナ!?お前塩入れたのか、エリュティアの紅茶に!」
「えぇぇ!?そんなはず…。…あ!何で!?砂糖入れてたはずなのに…塩になってる!!」
慌ててシルナが引き出しを確認すると、いつもならスティックシュガーが山程入っているはずの場所が。
何故か、スティックソルトにすり替わっていた。
何だスティックソルトって。聞いたことないぞ。
これは…もしかして。
「ごめんね!はい、これは大丈夫だから。はい、これチョコ」
シルナが、急いでケーキの代わりに詫びチョコを出す。
が、
「…何だかこれ、一口齧られてるんですが…」
「えぇぇ!?」
クュルナが摘んだチョコは、何故か端っこがちょこっと欠けていた。
ネズミに齧られたみたいに。
更に、エリュティアは。
「もごっ…!?げほっ、げほっ!」
また噎せてる。
「大丈夫かエリュティア。しっかりしろ、何があった?」
「からっ…。辛い、これ…辛いっ…ごほっ」
辛い?チョコレートが?
よく確かめてみると、エリュティアの齧ったチョコレートの中には。
いつぞや、元暗殺者組が仕込んでいた、例のデスソースが。
まさかそんな。いつの間に、誰がこんな陰湿な悪戯を?
やっぱり、これは…。
よもやと思って、小人共を見ると。
奴らは、にやにやしながらこちらを見ていた。
よく見たら、それぞれの小瓶の底に、それぞれ赤い液体と、青い液体が溜まり始めていた。
あれが…奴らの感情ゲージなのか。
「お前らの仕業なのか?これ…」
「うん」
「そうだよ」
この野郎、悪びれもせず。
つまりこれは、全部この小人共の仕業で。
意図的に、クュルナとエリュティアに不運が起きるよう、操作しているのか。
クュルナは怒りを、エリュティアは悲しみを感じるように。
「この調子で、七日間じっくりかけて、僕は怒りを…」
「僕は悲しみを、君達に教えてもらうからね」
…最低だ。
そして陰湿だ。
もう、既にこの時点で怒りも悲しみも感じてるよ。
「大丈夫。瓶がいっぱいになったら、ちゃんと解放してあげるからさ」
「そうそう。君達は、ただ感じてくれるだけで良い。楽なものでしょ?」
この小人、もう何回もぶん殴ってやりたいと思ったことだが。
やっぱりぶん殴ってやりたい。
何が楽なもんだ。ふざけるのもいい加減にしろ。
「この調子で、あと七日間…頑張ってね〜」
小人共に、へらへらと笑われ。
俺はこいつらをぶん殴りたい衝動を、必死に堪えるのだった。