ついさっきまで、ボロボロだった線路が。
一瞬のうちに、もとに戻ったのを見て。
駅長さんを始め、駅員さん達は、皆唖然とし。
それから、涙を流さんばかりに、感謝の言葉を頂いた。
何なら金一封を用意しようとする駅長さんに、「こっちは仕事で来てるだけだから」と必死に辞退。
それよりも、列車の運転再開を優先して欲しいと頼んだ。
幸い列車には被害は及んでおらず、線路さえ直れば、すぐ発車出来る状態だそうで。
あと10分ほどで、全便運行を再開するとのことだった。
ようやく、一息つけたな。
「…それで」
と、一仕事終えたエリュティアが言った。
「僕達は、もうやることは終わったので、空間魔法で王都に帰りますが…。学院長先生達はどうされます?」
「私達は…外にヘーゼルちゃん、えぇと、生徒を待たせてるから、生徒と一緒に、列車で王都に帰るよ」
シルナなら、そう言うと思った。
生徒を置き去りにして、自分だけ先に帰るなんてことは有り得ない。
ヘーゼルの他にも、可能な限りうちの生徒を見つけ、皆で帰ろうと思っているのだろう。
その方が良い。
運転が再開されたからって、この群衆が一度に大移動しようとしているのだから、大変だ。
列車は当然、待ち切れない乗客達で満員だろうし。
何本か列車を見送って、ある程度乗客の数が落ち着いてから、ゆっくり戻れば良い。
無理に始発に乗って、さっきのヘーゼルみたいに突き飛ばされたり。
ぎゅうぎゅう詰めの列車で疲労困憊して、学院に辿り着くなり、バタンと倒れたんじゃ、話にならない。
「そうですか。それじゃ…僕達はここで…」
「いや、待て」
エリュティアが、軽く会釈して立ち去ろうとした瞬間。
無闇が、そんなエリュティアを止めた。
…?何だ?
「どうかしたのか、無闇?」
「この際だ。イーニシュフェルト魔導学院の代表である二人にも、話しておいた方が良い」
無闇は、エリュティアに向かってそう言った。
…話…?
「で、でも…まだこの話は極秘にと…シュニィ隊長が」
「一般魔導師達には、だろう?隊長達は皆知っているし、何より彼らは、れっきとした聖魔騎士団魔導部隊の一員で、しかも特務隊隊長と、部隊の名誉顧問だ。話しておいて問題ないだろう。いや…むしろ、話しておくべきだろう」
「…」
「それに、いずれはイーニシュフェルト魔導学院の面々にも、遅かれ早かれ知らされることになるはずだ。なら、多少早くなるだけだ」
「そう…かもしれませんね。確かに…良い機会です」
と、二人は言った。
何の話だ?
「お互い、あまり時間がないので、簡潔に話しますが…。…近頃、国内の魔導師排斥運動が、高まっているようなんです」
突然の、エリュティアの報告に。
俺もシルナも、思わず仰天してしまった。
魔導師排斥運動。
これは、ルーデュニア聖王国に限らず、全国各地で、少なからず起きてきる運動だ。
これらを行うのは、魔法を忌み嫌い、魔導師の存在を危険視する、所謂魔導師排斥論者達。
人智を超えた力を、人が手にすることをタブーとみなしている人々だ。
彼らはいつだって、大なり小なり、歴史の中に存在してきた。
俺は、他ならぬ魔導師だから、無論、魔導師排斥論者の肩を持つ訳にはいかないが。
しかしある意味では、彼らのような存在は、いて当然だと思っている。
この世界にいる全ての人間が、魔法を使える訳ではない。
魔法を扱えるのは、人並み以上の魔力と、そして生まれながらに持つ、魔導適性が必要だ。
この魔導適性というものが曲者で、これは努力や勉強によって身につくものではない。
人が生まれながらに持っている、才能のようなもの。
どんなに保有魔力量が多かろうが、どんなに強く魔導師になりたいと望もうが、魔導適性がなければ、魔導師にはなれない。
これだけは、本人の意志では変えようがない。
そして、生まれながらに魔導適性に恵まれた者だけが、人智を超えた力を扱い、行使する権利を与えられる。
故に、魔導適性を持たざる者は、魔導師達を妬み、憎み、忌み嫌うのだ。
彼らからすれば、俺達魔導師は、ただ魔導適性に恵まれて生まれたというだけで。
当たり前のように人智を超えた力を行使し、人々を高みから見物して嘲笑う、傲慢な権威主義者のように見えるのだろう。
無理もない、と思う。
誰だって、自分には出来ないことを、当たり前のように出来ている人を見れば。
そりゃ妬みもするし、逆恨みもする。
ましてや、その魔導師が、己の才能に驕ることなく、謙虚な態度でいるならまだしも。
「自分はお前ら平民とは違う、魔導師様なのだ」と、偉そうに威張っている魔導師も、一定数いるのが現状。
同じ魔導師として、情けないの極みだが。
実際、そういう魔導師達もいるのだ。
そんな魔導師を見ていれば、魔導師排斥論者が唾を飛ばして、魔導師の存在を否定するのも、頷けるというものだ。
それに、魔導師排斥論者が憂慮しているのは、魔導師の存在だけではない。
その魔導師が使う、魔法そのものにも難色を示している。
魔法とは、言うまでもなく、人の扱える力を超えた、自然の摂理に触れるもの。
先程、俺達がやったこともそうだ。
一般人なら、列車に揺られて長旅をしなければならない距離でも。
空間魔法を使えば、一瞬でひとっ飛び。
さながら瞬間移動だ。
さっきの、線路の故障だってそうだ。
本来ならシャベルで瓦礫を退かし、更に重機を入れて地面を平らにし、それから線路を敷き直して…と、数日がかりで直さなければならなかったものを。
俺の時魔法で、あっという間に、まるで何事もなかったかのように、直すことが出来る。
このような、ある意味反則紛いの力を、当たり前のように行使する。
魔導師排斥論者は、この力そのものを、危険視しているのだ。
力というものは、強大であればあるほど、使いようによっては多くの人々を傷つける。
全ての魔導師が、シルナのように馬鹿みたいに善人で、お人好しなら話は早いが。
そんなはずはない。魔導師だって、一人の人間なのだ。
この人智を超えた力で、悪事を働く者もいれば。
それこそ、人を傷つける為に魔法を使う、愚か者だっている。
そんな魔導師を見ていれば、魔導師排斥論者が生まれるのは、当たり前のことだと俺は思う。
誰もが皆、善人ではないのだ。
力があれば、良い方に使う者もいれば、悪い方に使う者もいる。
そしてその力で、傷つけられ、血を流す者もいるのだ。
だったら、魔導師なんて存在は、この世界には必要ない。
そう考え、魔導師を国の中から撲滅し、普通の人間だけの、健全な国であろう。
そんな主義を掲げているのが、魔導師排斥論者達である。
そして、今。
その魔導師排斥論者達の動きが、活発化し。
魔導師排斥運動の動きが高まっていると、エリュティアは言った。
小一時間ほど、駅構内を駆け回り。
ヘーゼルとマリアンナを含め、およそ20名弱の生徒を見つけた。
ほぼ、シルナの目のお陰だ。
彼らは今制服を着ていないから、俺にはなかなか判別するのが難しかったのだが。
制服だろうが私服だろうが、自分の生徒を見分けるには関係ないシルナは、
「はっ!あそこにうちの生徒が!」とか。
「はっ!あそこにラウル君が!」とか言って。
ゴキブリの如き素早さで、生徒を見つけ出していった。
よく集めたもんだよ。
しかし、それでも集まったのは、20名弱。
帰ってこなかった生徒は、およそ50名。
残りの30人は、どうしているのだろう?
俺達が見落としたが、それとも別の手段で、セレーナまで帰っているのだろうか?
とにかく、無事なら良いのだが。
先程不穏な話を聞いてしまったが為に、余計心配になってくる。
と、思ったが。
学院に帰ってきたときには、そんな俺達の心配は、杞憂に終わっていた。
俺達が、20人を連れて学院に戻ると。
そのときには既に、何名かの生徒が学院に辿り着いていた。
なんと、あのごった返した駅で、運転再開直後の第一便に乗れたらしい。
とはいて、やはり相当無理をしたらしく、学院に辿り着いたときには、ぐったりしていたそうな。
養護教員でもある天音の指示で、今日は学生寮でゆっくり休むように言いつけられ。
今は、学生寮で休んでいるとか。
だから、無理して欲しくなかったんだよ。
で、他の生徒はどうなったか。
ある者は、上手いこと長距離バスに乗って、バスで戻ってきたり。
シャネオンでも、海に近い港町方面に住む生徒は、なんと船を乗り継いで、戻ってきたそうだ。
成程、船という手段もあったか。
とはいえ、皆考えることは同じで、船の方も、かなりごった返していたそうだが。
それでも、駅よりはマシだったみたいだ。
そして残りの生徒は、親が駅の惨状を見て、「これは今日帰らせるのは無理」と判断し。
学院に連絡を入れ、一日帰るのを遅らせて欲しいと頼んできたそうだ。
ある意味、これが一番賢明な判断だったかもしれないな。
勿論イレース達はこれを承諾、遅れても良いから、安全に戻ってくるよう伝えてくれたそうだ。
これで、明日には、残りの生徒が戻ってくるだろうな。
ようやく、一安心だ。
さて、生徒の問題は、それで解決したが。
俺達は南方都市シャネオンの駅で、聖魔騎士団魔導部隊の二人に、不穏な話を聞かされている。
そのことを、イレース達にも伝えておかなければなるまい。
そう思って俺とシルナは、放課後、教員達を学院長室に召集した。
まずは、今日の経緯から話そう…と、思っていたのだが。
「成程、シャネオンに着いたら、聖魔騎士団から派遣された魔導部隊大隊長二人と偶然合流。線路が何者かに爆破されていて、その何者かは、最近謎の活発化を見せている、魔導師排斥論者の仕業だったんですね」
「…そうだよ」
ナジュが、俺とシルナの心を読んで、説明するまでもなく要約しやがった。
ご苦労さん。余計なお世話だこの野郎。
丁寧に訳してくれやがって。
「そ、それはまた…。えぇと…情報量過多で、大変ですね…」
と、天音。
本当にな。だから順を追って説明しようとしたのに。
この読心魔法教師が、一気に全部喋りやがった。
「魔導師排斥論者の仕業…?一体何事があって、そんな連中が駅爆破なんかするんです」
イレースは、眉をひそめて言った。
彼女の中で、その言葉が引っ掛かったらしい。
何にせよ、自分の立てた完璧な授業計画を台無しにした者は、誰であっても許さないというスタイルだな。分かる。
お前はそういう奴だよ。
「さぁ、どういう意図があってやったのかは…。少なくとも、犯行の時間帯を考えても、誰かを殺したかった訳ではないみたいだね」
「殺さなかったら、人様に大迷惑をかけて良いとでも?全く、腹の立つ連中です」
おぉ怖っ。
魔導師排斥論者の連中の前に、イレースを一人連れてきたら、あまりの恐ろしさに手出し出来なさそうだな。
「しかし、その辺ルーデュニアは緩いと思ってたのに、そうでもないんですねぇ」
と、ナジュが言った。
緩い?何が?
「だって、僕がルーデュニアに来てから、魔導師排斥運動なんて、聞いたことありませんよ。ルーデュニアは比較的、魔導師に寛大な国だと思ってたのに」
それは…。
「僕も、同じことを思った。色んな国を回ってきたけど、ルーデュニアはかなり、魔導師に優しい国だよね」
と、ナジュと同じく、各地を回ってきた経験のある天音が言った。
「全くですよ。僕が生まれた国なんて、魔導師と非魔導師が、血で血を洗う戦争してたくらいですよ。それを思えば…」
「うん。僕も、そんな国を見たことがある。そういう国の魔導師は、優遇どころか、酷く虐げられて…。居心地が悪かったから、僕はすぐに出ていったけど…」
二人は、続けて言った。
…まぁ、そういう国もあるよな。
むしろ、ナジュの言う通り、ルーデュニア聖王国が、特別魔導師に寛大な国なのだ。
これが他の国だと、そうはいかない。
前述の通り、魔導師とは、人智を超えた力を持つ者。
そんな存在を、危険視する人間がいるのは当たり前だ。
だから魔導師排斥運動は、何処の国でも、必ずと言って良いほど存在する。
だが、その魔導師排斥運動の規模は、国によってまちまちだ。
ナジュや天音の言うように、魔導師の立場の方が低く。
怪しげな術を使う危険人物だとして、意図的に魔導師を弾圧する国もある。
魔法の概念が浸透していない国では、魔導適性を持っているというだけで、「異常者」のレッテルを貼られることさえある。
その点、ルーデュニア聖王国は、その真逆の国だ。
今日も、見ただろう?あの駅長さん達の対応を。
聖魔騎士団から、魔導師が派遣されてきたというだけで。
わざわざ駅長が出てきて、深々と頭を下げ。
魔導師に「様」までつけて呼び、俺達魔導師の魔法を、有り難いものとして尊敬の眼差しで見てくれた。
国によっては、良かれと思って魔法を使ったら、「余計なことをするな、呪い師風情が!」と石を投げられてもおかしくはないのだ。
そんな国には、イーニシュフェルトのような魔導師養成校もないし。
当然、聖魔騎士団魔導部隊のような、魔導師による国軍も存在しない。
そういう国では、魔導師は「異端者」だからだ。
ならば何故、このルーデュニア聖王国が、こんなにも魔導師に優しい国になっているのか。
その理由はまず、この国の女王である、フユリ・スイレン女王陛下が、魔導師に寛容な考えを持つ人物であるから。
彼女は魔導師を危険な人物ではなく、むしろ人智を超えた力をもって、国に貢献してくれる人物だと定義している。
だからこそ、聖魔騎士団に魔導部隊を作ることを許可し、魔導師養成校の創設にも積極的に着手する。
勿論、魔導師が危険な存在である可能性も、分かっていない訳ではない。
魔導師の危険性を知っていながら、それでいてなお、魔導師に正しい倫理観を求め、その力を人の為、国の為に使うよう期待している。
だから、そんな寛容な雰囲気の中で育つルーデュニアの魔導師達は、自然とその期待に応えようと、正しい倫理観を持った魔導師が増える。
魔導師達は人の為に魔法を使い、それによって助けられた人々は、魔導師に敬意を評し、自然と魔導師に寛容になる。
そんな空気を、そんな倫理観を、この国に植え付けたのだ。
フユリ・スイレン女王陛下と…。
そして、ここにいるシルナ・エインリーが。
表沙汰には知られていないし、ルーデュニア聖王国建国の歴史を紐解いても、シルナの名前は出てこない。
しかしその実、この国の建設には、シルナが深く関わっている。
あの頃は「前の」俺だったから、俺はよく知らないのだが…。
シルナは、自分と「前の」俺が、居心地良く…いや、都合良くルーデュニアに住めるよう。
裏から手を回し、現在のルーデュニア聖王国が出来上がっている。
シルナも、俺の心を読んでいるはずのナジュも、事情を察していながら、何も言わないが。
ルーデュニア聖王国は意図的に、魔導師に優しい国になるよう、作られているのだ。
だから、これまで魔導師排斥論者は、一定数存在してはいるものの、その存在が表に出てくることは、ほとんどなかった。
あったとしても、結局丸く収まっている。
この国は、「魔導師なんて危険だ。淘汰すべきだ」なんて、人前で言えば。
「この人は何を言ってるんだ?」と、眉をひそめられる国なのだ。
むしろ、魔導師排斥論者の方が、異端視されるほど。
だからこれまで、魔導師の立場が揺るがされるようなことはなかったし。
魔導師排斥運動が、活発化することもほぼなかった。
それなのに、今回はまた…一体どうして、こんなことになったのか。
俺にも、見当がつかない。
大人達が揃って、頭を悩ませていた、
そのときだった。
俺の目の前に、天井から、逆さまの人間がにゅ〜っと降りてきた。
心臓止まるかと思った。
何してんだお前、と言おうと思ったら。
先に、向こうが口を利いた。
「…ねぇ」
「ひぇっ!?」
彼は逆さまになったまま、ポン、とシルナの肩に手を置いた。
シルナは、ぶるぶると震えながら、後ろを振り向いた。
そこには、天井から宙吊り状態で、こちらを向いている者がいた。
「う、うぴゃぁぁぁぁぁ!!」
シルナの、この上なく間抜けな悲鳴が。
夜のイーニシュフェルト魔導学院にこだました。
…。
…そりゃびびるわ。
「出たぁぁぁ化け物化け物ばへもの!」
噛んでるぞ。
「助け、助けてぇぇイレースちゃ、」
「鼻水垂らして汚らしい。近寄らないでください」
イレースに助けを求めるも、鬼教官に救いはない。
「な、ナジュ君助け、」
「あはは、なると思ってた。ウケる〜!」
ナジュに助けを求めるも、指を差して笑うだけ。
そして、残るは。
「あ、天音君〜っ!助けて〜っ!」
「は、はい…。僕もびっくりしたので、大丈夫です…」
良かったな、シルナ。
天音だけは、シルナが鼻水垂らして縋り付いてこようと、無下にあしらわない。
ナジュはもうクビにしろよ。
…それと。
「…何をやってんだ?お前は」
「え?盗み聞き」
悪びれもせず、とんでもないことを言う逆さま男。
天井から、まるで空中に浮遊するかのように、ぷらぷらと浮いているのは。
元『アメノミコト』、『終日組』の暗殺者にして、イーニシュフェルト魔導学院三年生。
黒月令月である。
そして、令月がいるということは。
俺は、宙吊りになっている令月の上を見た。
何故か天井の板が、一部ぽっかりと外れ。
そこから、もう一人が覗いていた。
「ん?何で見てるの?」
「それはこっちの台詞だ、馬鹿」
何白々しい顔して、白々しいこと言ってんだ。
「降りてこい、すぐり」
同じく、元『終日組』暗殺者で、イーニシュフェルト魔導学院二年生。
花曇すぐりである。
令月が空中に宙ぶらりんになっているのは、このすぐりのせいだ。
目には見えないが、令月の足には、すぐりお得意の糸が巻かれており。
その糸で天井から吊って、宙吊りになっているのだ。
器用なのは分かるが、幽霊みたいなことすんな。
こいつらには気配というものがないから、余計幽霊みたいに見える。
「ふぇぇぇぇ、お化けぇぇぇぇ!」
見ろ。シルナがびびり散らかしてる。
なのに、元暗殺者組は、「何やってんの?」みたいなきょとん顔。
ったく…。
「降りてこい、お前ら」
まず、話はそこからだ。
「しょーがないなぁ。落とすよー『八千代』」
「うん、良いよ」
プツッ、と糸が切れ。
宙吊りになっていた令月は、くるりと一回転して、綺麗に着地。
同時に、天井裏に潜んでいたすぐりも、しゅたっ、と軽やかに降りてきた。
身のこなしが、相変わらず暗殺者のそれだ。
シルナがぶるぶる震えているというのに。
「お前ら、俺達に何か言うことは?」
俺は、しかめっ面で二人に聞いた。
しかし。
「あ、うん。魔導師排斥論者って何?」
違うだろ、馬鹿。
もっと他に言うべきことがあるだろ。
下校時刻を過ぎたのに、飽き足らず学生寮から抜け出してごめんなさいとか。
いつの間にか学院長室の天井裏に忍び込んで、盗み聞きしてごめんなさいとか。
宙吊りで現れて、シルナの度肝を抜かしてごめんなさいとか。
謝罪しろ。色々と。
しかしこいつらは、そのような謝罪は一切なく。
まるで悪びれもせず、けろっとして話に加わろうとしてきやがった。
一体何回、学生寮から脱走すれば気が済むんだ?
「今日は一体、何だって忍び込んだんだ?」
「え?『八千歳』が、『ねー今日忍び込まない?』って言うから…」
そんな、学校帰りにゲーセン行くみたいなノリで忍び込むな。
そして令月、お前もそれを了承するんじゃない。
「そしたら、案の定難しそーな話してたから。話に入れてもらおうと思って」
と、すぐり。
こいつら…。
「…何処から聞いてたんだ?」
「ナジュせんせーの、『成程、シャネオンに着いたら…』のところから」
初っ端から聞いてたんじゃないかよ。畜生。