「いらっしゃい、優介くん、瑠夏ちゃん」

彼は優介だけでなく、私の名前も知っていた。

部屋の中は白を基調とし、とても落ち着いていた。

そわそわしていた空気も次第に薄れていく。

眼鏡をかけ、さらさらとした黒髪の爽やかな部屋の主は、

私たちを奥のリビングの方へ案内した。

彼に促されるまま出されたお茶を、未だ訳が分からぬまま口にする。

香りがたっていて、味音痴の私にもその美味しさがよくわかった。

「ごめん、いきなりで驚いたよね。
僕は佐伯爽太(さえき そうた)だよ。よろしくね」

「あっ、藍原瑠夏です」

彼に流されるように、私も自分の名前を名乗る。

すると彼が、とある一言を放った。


「夏だとさ、この時間帯が1番綺麗なんだよ」


ずっと纏わりついて離れてくれないセリフだ。

思わず紅茶を飲む手が止まる。

彼は私と優介をベランダへと導く。


彼がカーテンを開けると、そこには壮大な空が広がっていた。


窓を開けると、夏の残り風がふわっと髪を靡かせる。


1番上は青で、真ん中はピンク、そしてその下には橙の、3色で彩られた空に、思わず圧倒した。


私の目から、涙が頬を伝う。



ずっと見たかったんだ、この空をもういちど。