「優介」と、彼女が僕の名前を呼ぶ。

彼女は自分が背負ってきた鞄の中からある物を取り出した。

見覚えのある、紺色の…。

“これ、俺が帰ってきた時に返して。”

あの日の、マフラーだった。


彼女は夏にちっとも似つかわしくないマフラーを僕の首に巻いた。

首元が一気に、暑苦しくなったのを感じた。

彼女の匂いが染み付き、不思議と、心地よかった。


「約束、守れなくてごめんな」



“それから…。

俺のこと、忘れないで”


5年前、彼女と交した約束だった。海に飲み込まれたあの日からずっと、果たせなかったんだ。


今日、あの日の約束を守れたと言える日になった。

「私はずっと守ってたよ。

優介のこと忘れた日なんて、一瞬だってなかった。」


僕の目から、涙が頬を伝った。