❁⃘

そこはあの大嫌いな海だった。

見覚えのある海。

しっかりと僕の記憶に刻み込まれている。

「空と1番近くの海…」

1人の少年は、海に反射し、背景にはオレンジ色の空が彼を照らし

とても絵になっていた。羨ましくて、ムカつくほどに。

僕は彼より、ずっとずっと成長している。

あの頃のまま、止まってしまっている彼は、

「久しぶり」と僕に声をかけた。

僕が今たっている場所から、彼のいる海はさほど近くないはずなのに、

彼の声ははっきりと僕の耳に届いた。

「久しぶり」

僕もそう返し、ゆっくり彼の方へ近づく。

近づけば近づくほど、自分が成長してしまったことを痛感させられた。

じゃぶじゃぶと海に入っていき、足首が浸かるぐらいまで来たが、

濡れた感覚は無かった。


彼と離れる目線の位置。


「ごめん」

ずっと、謝りたかった。

僕は取り返しのつかないことをしてしまったから。

けどもう二度と、伝えられなくなってしまったはずだった。

はずだったのに、

そう口にしたのは、東希の方だった。