彼がバイトから上がる頃、海辺で待ってる節を連絡した。

「彩絵」

ぱっ、と振り向くと、いつもの顔があった。

途端に、心臓がドクドクと鼓動を増したのがわかる。

それでも、暖かくて、安心する、声と表情に、私はエーデルワイスを強く握りしめた。

黒羽は私の隣に腰を下ろす。

「それ、どうしたの?」

「伊勢に貰った」

「へぇ、あいつ、洒落てんね」

ははっ、と黒羽の笑い声が、波の音と混じる。

ずっと、ずっと続いて欲しい。

現実から目を背けられた、この短い時間が。

ずっと、逃げ続けたこの時間が、哀れで、情けなくとも

私にとって最高で1番の幸せだった。


ただ、真っ直ぐと地平線を見つめた。

夕日が海に反射している。

以前と比べ日の沈みが早いことに、夏の終わりを感じてしまう。


「黒羽は、卒業したらどうするって言ったっけ」

「ん?んー、佐上大学だよ」

「それって、オックスフォードにあるの?」


私は、まっすぐ彼を見つめた。

少し、嫌味っぽすぎたかもしれない。

だけど、私たちに最後まで隠し通そうとしていた黒羽に、腹が立っていたのは事実だ。

「なんで、それ」

「ごめん、夏休み前に大井先生と話してるの、聞いちゃった」

黒羽は私の方から視線をずらさなかった。

「俺の方こそ、黙っててごめん」

行って欲しくなかった。怖くてたまらなかった。

それでも、瑠夏と優介が2人で乗り越えたのを、隣でずっと見ていた。


やっと、やっと。

ずっと自分が、出来なかったことを。

今度こそ