「いらっしゃ…げっ。」

「げっ、て言うな」

「茶化しに来たのか?」

確かに彼の、爽やかなエプロンを身に纏い、美しい花たちに囲まれる姿は、

何度見ても反吐が出るほど似つかわしくないが、今日は別に彼をからかいに来た訳では無い。

1年前に、黒羽のバイト終わりに一緒にこの伊勢の花屋をたまたま見つけた。

1年前も、私よりも先に黒羽が似合わねー!とゲラゲラ笑い出すほど、

本当に彼と花は似合わない。

多分彼を好きな多くの女子からみたらそれはそれは絵になるんだろうけど。

…黒羽の方がよっぽど。

「じゃ、茶化しに来たんじゃないなら何しに来たの」

「花屋にコーヒーを飲みに来るお客さんがいる?」

「お前、ほんと可愛くねーな。瑠夏の友達とは思えね。

あ、てか、さっき瑠夏が来たの、お前だろ!!」

「んーどうしよっかな。応援って意味の花言葉を持つ花って何かないの?」

ったく、と小言を言いながら、彼はお客さんに頼まれたのであろう花束の、

花の茎を慣れた手つきでカットしていた。