「白血病だった」


東希の病態を知っていたのは、私だけで、ずっと彼の病院に通い続けていた。

本当に、瑠夏や優介や、他の誰にも言わなくて良いのかと何度も問いたが、

彼は言わないで、の一点張りだった。

彼の病室に入る度に、彼はやせ細っていき、

幼い頃から見ていた以前のようなありふれた元気は、ぱったりなくなってしまった。

そんな姿を見るのが、怖かった。

建物に入る度、病室のドアを開ける度、鼻の奥を突き刺す消毒の匂いが、

嫌いで嫌いで堪らなかった。

彼と会う度に、彼の死期が近づいていると実感する度に、

その匂いは強く感じられた。

(あぁ。)

黒羽の留学の話を聞いた時、私は思った。

前にもこんなことがあった。

伝えたくても、何も伝えられなかった。

ずっと罪悪感を感じていた。

彼女に対してだけじゃない。

彼にも…。

東希にも。


(私があの時伝えてれば、今頃はもしかしたら)