「いえ。違います。」

「なんで隠すの。花屋でバイトしてたんだ。」

「…ここおれんち。」

えっ、と声を漏らし、目線を上へあげると、

看板にははっきりと『伊勢花屋』と記されていた。

…彩絵、おそらくここが伊勢の家だって知ってて促したな。

一体なんの意図があったのかわからないけど。

「学校の伊勢ファンの子たちは、ギャップで惚れ直しちゃうかもね」

「えっ、てことは瑠夏…!」
「それは違う。」
「はい。…ん、瑠夏、それ新しいの?」
「あぁ…。」

彼の言葉で、私も彼と同じく自分の手元に目をやる。

黙っていると、伊勢は「何かあった?」と声をかけた。

「伊勢って、本当に人の事よく見てるよね」

「え?」

「入学式の日も、足痛いの?って声掛けてくれたもんね」

入学式の日、中学までずっとスニーカーで過ごしていた私は

ローファーで靴擦れをして、足を血だらけにしてしまった。

そんな私に彼は、いきなり声をかけて絆創膏を寄越してくれたのだった。