いつものように扉を開けるなり、黒羽がご丁寧にお出迎えしてくれた。

彼は私たちを海の見える窓際へ案内した。

いつもは真っ青な海が、曇天で灰色に染まっている。

私は今日もカフェラテと、もう1つベーコンエッグフレンチトーストを注文した。

「黒羽に、告白しないの?」

ベーコンエッグフレンチトーストは、甘さとしょっぱさが絶妙で、

ふわっ、と口いっぱいに広がるメープルの甘味を味わえた。

彼女もまた、木苺パンケーキ、なんて可愛らしいスイーツを頬張っている。

「…しないよ。せっかく留学するのに、私の言葉で重荷にしたくないし」

彩絵のパンケーキを食べる手は止まった。

彼女の言い分はわかる。黒羽を思ってこそだと思う。

自分の気持ちを押し殺して、彼を応援することを優先して…。

それでも、私は、二度と伝えられなくなってしまう現実を知っている。

本当なら、私は伝えられる言葉は、伝えられるうちに伝えて欲しい。

しかしこれは2人の問題であって、彩絵が、自分自身で決めることだ。

カフェラテには、それはそれは綺麗なラテアートが浮かべられている。

…私は彩絵が辛い目に遭わない選択をして欲しいと思う。

「瑠夏、私さ」

彼女は私の方へ目線をあげる。


「瑠夏と、東希が両思いなの、知ってた」

思わず私は、えっ、とか細い声を漏らす。

「相談されたことあったの、優介には、敵わないって。

…夏祭りの日、東希が瑠夏の靴擦れの手当してくれたんでしょ」

「うん」

「あれ、最初に瑠夏が靴擦れしたのに気がついてたの、優介だったんだって」

「……え?」

「東希が優介の目線を見て、靴擦れしてるって気づいて、それで手当してあげたって言ってた。

優介は瑠夏の異変に誰よりも早く気づくから、

適うわけないって。」