壮大な海を目の前にし、彼女は宝石のように目を輝かせている。

「めっちゃ綺麗ー!
夕日が海に沈んでくとこ、何気に初めて見た!」

彼女の後ろで、海が立ちはだかっている。

「すげー」

「ほんとに思ってる?」

彼女は僕の顔を覗き込んだ。

「うん。思ってる」

痛々しさと、心の底から綺麗だと思えることになぜだか寂しさを感じる。

記憶を失ってから…実質、今の僕が海を目の当たりにしたのは初めてだ。


僕はずっと、どこか海を好きになれなかった。

どこまでも続いてる海に、不安感を覚えた。

終わりがないようで、必死で追いかけても辿り着けない感じがして…。


“以前の僕”は、どうだったっけ。


「じゃあ、写真撮ってよ!海入ってくるから!」

そのまま海に向かって走って行く彼女に、は!?と声を上げる。

「濡れるんじゃねーの?」

「足だけ、足だけ〜」

子供かよ、と思いつつ、そこに可愛らしさも感じる。

ポケットからスマホを取り出し、僕は画面越しに彼女を見た。

光が反射している。