「あの、わ、私……」

「君にそんな卑猥な言葉を教えたのは誰かと聞いている。まさかとは思うが、俺以外にもそんな風に声をかけたことがあるのか?」

「まさか!」



 シエナは思い切り首を横に振る。



「グレゴリー様が初めてです!!」

「……なるほど」



 何がなるほどなのだろう。シエナは泣くに泣けずにグレゴリーからの冷たい視線を受けて立ち尽くしたままだ。



「では、他の男に胸を揉ませたことはないんだな」

「ありません!!」



 ふしだらな娘と思われることだけは避けたくて必死にシエナは首を振る。

 あまりに勢いよく振ったので、少し目眩がしてきた。



「あ……!」

「おっと!」



 よろめいたシエナの体をグレゴリーが支えてくれる。

 大きな手に肩を抱かれ、シエナは胸に秘めた恋心が暴れ出すのを感じた。



「気をつけなさい、シエナ」

「は、はひ……」



 色々な意味でいっぱいいっぱいになったシエナはグレゴリーに促されながら、彼が先ほどまで座っていたベンチに腰を下ろす。そしてグレゴリーも自然な動きでその横に座った。

 肩がくっつきそうなほどの距離感で並んで座っているという状況に、シエナはますます混乱してくる。

 合わせる顔がなくてうつむいたまま、こぼれそうな涙を必死にこらえることしかできない。



(うえええん。どうしたらいいのぉ)



 はしたない娘だと思われたあげく、迷惑をかけて、グレゴリーの邪魔をしている。

 嫌われ要素のスリーカードが揃ったことにシエナは二度目の失恋を覚悟した。