兄たちが酔いに任せて「どんなストレスも女の胸を揉めば忘れてしまう」と話していたのを真に受けたのがばかだった。

 だいたい、いくら冷静さを欠いていたからと言って胸を揉むか? など聞くことがおかしいのだ。

 グレゴリーを慰めようと脳みそが誤作動を起こしたに違いない。



(高潔なグレゴリー様に軽蔑された! 完全に嫌われたわ!)



 真っ青になったシエナは泣き出しそうになるのを必死にこらえ、引きつった笑みを作る。



「なーんちゃって……」



 どうにか冗談でごまかせないかと声を上げようとした瞬間、ものすごい勢いでグレゴリーが立ち上がってシエナの真正面に立った。



「誰が君にそんな言葉を教えたんだ、シエナ」

「ひえっ!」



 先ほど、アナスタシアに婚約破棄を告げられたとき以上の迫力だった。

 灰色の瞳が仄暗く光り、まっすぐにシエナを見下ろしている。

 こんな怒ったグレゴリーの姿は初めてだった。



(お、怒らせた……!)



 シエナの頭が絶望に染まる。

 元気づけようとしただけなのに、余計に怒らせてしまった。