(いた……!)
そこは王城の薔薇園だった。子どもの頃、薔薇が大好きだったシエナをグレゴリーはここに連れてきてくれていた。それがアナスタシアに会うための口実だと気がついてからは、シエナは遠ざかっていた場所だ。
昔と変わらずに色とりどりの薔薇が咲き乱れる美しい庭の中央に、グレゴリーはいた。
ベンチに深く腰掛け、握りしめた拳に額を押しつけるようにして背中を丸めた姿は痛ましい。
未来の王配として努力を重ねていたグレゴリー。その努力とアナスタシアへの愛情を一気に失った苦しみはどれほどだろう。
(なにか、元気づける言葉を……)
下手な慰めは余計に相手を傷つけることをシエナは知っている。
かつて、グレゴリーへの失恋に涙していたシエナを慰めようとした兄が「お前とアナスタシア様じゃ雲泥の差だから仕方がないさ」と言ったことがあった。シエナはその日から一週間、兄と口をきかなかった。
(男性が喜びそうなこと……なにか、なにか……)
グレゴリーとの距離を縮めながらシエナは必死に考えを巡らせる。
ちょうど兄のことを考えていたからか、数日前に酔っ払った兄とその友人たちの会話が脳裏に思い浮かんだ。
そのときは、あまりに低俗で最悪だと兄たちを軽蔑したシエナだったが「男にはたまらない提案だ」と叫んでいた兄の声が頭にこだまして離れなくなる。
(女は度胸よ……!)
だめで元々。笑ってくれればいい。