アナスタシアとグレゴリーの結婚はまもなくと言われていた。結婚式で誓いの言葉を口にする二人を見れば、この恋心と決別できると思っていたのに。
まさかあんなに手酷い形でグレゴリーが婚約破棄を告げられるなんて信じられなかった。
(グレゴリーが横暴? 令嬢と遊んでる? そんなことあるわけないわ)
シエナが知るグレゴリーは誰に対しても親切だし、紳士的だ。彼の魅力にやられて近寄ってくる女性は少なくなかったが、グレゴリーはいつだってアナスタシアを優先させていた。
(アナスタシア様がマキシム様と親しくしているのは知っていたけど、こんなのはひどい!)
悔しさに、シエナは唇を噛んだ。
(きっとマキシム様がアナスタシア様に嘘を吹き込んだんだわ)
マキシムは外見こそまるで絵本に出てくる王子のように甘く女性人気は高いが、その陰ではたくさんの娘たちを泣かせている最悪の男性だ。最近では王女のお気に入りであることを笠に着て、随分と横暴な行いをしているとも聞く。
(どうしてマキシム様の行いがグレゴリー様のせいにすり替わっているの? おかしいわ)
何もかも納得できないことばかりだ。
会場の外は静まりかえっており、人気はない。グレゴリーはどこだろうとしばし足を止めたシエナは、ある場所を思い浮かべ、走り出す。