「王女殿下! お戯れが過ぎます!」

「両陛下はこのことをご存じなのですか!?」



 ようやく我に返ったのか、王女の背後に控えていた宰相や近衛騎士たちが声を上げる。だが、アナスタシアは煩わしそうに彼らを睨み付ける。



「うるさいわね。私が決めたことよ。お父様たちだってお許しくださるわ。だって、グレゴリーよりもマキシムの方が私にぴったりでしょう?」



 自分のやっていることは間違っていないと信じ切っているアナスタシアに、宰相たちは苦虫を噛み潰したような表情になるも、言うべき言葉が見つからないのか唇を引き結んでその場で固まってしまった。



「……わかりました。殿下の意思を尊重致します」



 グレゴリーが悔しげに呟いた言葉に、アナスタシアは意外そうに目を丸くする。



「随分物わかりがいいのね。助かるわ」

「後ほど、公爵家から正式に王家に連絡を差し上げます」

「フフ、待ってるわ。ああそうだ、婚約破棄で全ての罪が許されると思わないでね。あなたがこれまで行ってきた悪行の数々については必ず報いを受けてもらうわ」

「……覚悟しておきましょう」



 そう言うとグレゴリーは静かにきびすを返し会場を出て行く。

 あとに残された貴族たちは顔を寄せ合い、何ごとかをささやき合っていた。