周囲が揺れるほどのどよめきが起きる。
「まさか、あのグレゴリー殿がそんなことを」
「ナザロワ公爵は息子の所業をご存じなのか?」
「王女殿下との婚約はかなり前からだというのに、まさか」
「マキシムとはミスキナ伯爵家の三男ではなかったか? 王女の護衛騎士をしていると聞いたが」
「確かそうだ。先日の剣技大会で優勝していた」
人々はグレゴリーに非難めいた視線を向け、好き勝手な発言を始める。
周囲の空気が自分に味方していることを察したのか、アナスタシアがにっこりと微笑んだ。
「グレゴリー。あなたは今日まで私をよく支えてくれたわ。そのことは感謝している。でもマキシムに害をなしたことは許せないの」
どこに控えていたのか、アナスタシアの横に一人の青年が立ち並んだ。輝く金の髪に緑色の瞳、たくましい体躯に凜々しい表情を浮かべた甘いマスクの美青年。二人が並ぶ姿は絵に描いたように神々しく、最初から一つの存在であったかのようだ。
「マキシム、貴様……」
グレゴリーが険しい表情で青年ことマキシムを睨み付ける。
マキシムはそんなグレゴリーに悲しげな視線を向け、何かを哀れむように小首を傾げた。
「残念だよグレゴリー。君はいい友達だと思っていたのに」
「何が友達だマキシム。お前はっ……」
「見苦しいわよグレゴリー!」
何かを言いかけたグレゴリーの発言を遮ったのはアナスタシアだ。マキシムを庇うようにその前に立ちはだかると、持っていた扇でグレゴリーをびしりと指す。
「あなたは私の伴侶にふさわしくないわ」
「……だから、婚約を破棄すると? そしてマキシムを選ぶのですね」
「ええ」
勝ち誇ったように胸を反らすアナスタシアに、グレゴリーは拳を握りしめて何かに耐えるように拳を震わせていた。