「あの、今からでも会場に……!」

「いやいや。気にしないでいいよ。陛下たちには逆に来ない方がいいと言われていたんだ。逆上したアナスタシアが俺に何をするかわからないからと」

「でも……」

「本当に大丈夫だよ。むしろ、早々に戻らなくて良かった。ここに来たことで、俺はアナスタシアの断罪以上に素晴らしいものを見れたんだから」

「へ……?」



 隣に座っていただけのグレゴリーが一気に距離を詰めてくる。

 シエナの腰をたくましい腕がまわり、まるで抱きしめるように引き寄せられた。



「シエナ。俺と結婚しよう」

「………………は?」



 突然の求婚に、シエナは間抜けな声を上げた。

 聞き間違いか空耳か。あまりの状況に頭がおかしくなって夢でも見ているのだろうか。



「なん、で、そんな急に」

「急にじゃないよ。俺はずっと君がかわいいと思ってたんだ。最初は妹のように愛しいと思っていただけだけど、君はどんどん素敵な女性に成長していって……誰かにさらわれるんじゃないかと気が気じゃなかった」

「え、えええ???」



 うそだぁと声にならずに呟けば、グレゴリーは困ったように眉根を寄せる。



「嘘じゃないよ。君が他の誰かに奪われないように、俺は君の兄貴に頭まで下げて見張りを頼んだんだ」



 グレゴリーが兄に頭を下げている光景を思い浮かべ、シエナは目を白黒させる。

 確かにシエナは年頃にもかかわらず求婚状が届いたこともないし、パーティの類いは必ず兄がエスコートしてくれていた。個人的にはおかげでグレゴリーを思う存分想えたので楽だったが、まさかそんな理由があったなんて。



「無事に婚約破棄できたら一番に君に求婚しようと思っていたんだ……シエナ、俺のものになってくれるよね?」

「でも、でも……」

「それとも君は好きでもない男に胸を揉ませるようなはしたない娘なのかい?」

「まさか!!」