「……シエナ、どうしてあんなことを言ったんだ」
(あれ?)
予想に反し、グレゴリーの声からは怒りを感じなかった。それどころかどこか切なそうな声音で。シエナは慌てて顔を上げる。
「……!」
自分を見つめているグレゴリーの表情は真剣そのもので、シエナに対する嫌悪感はないように思えた。
純粋に心配されていることに気がつき、シエナは安堵と悲しみで胸をいっぱいにする。
(喜ばせるどころか、心配されてる)
シエナの胸を差し出したところでグレゴリーは喜ばないということだ。
嫌われなかったのは嬉しいが、女に見られていないという事実を突きつけられているようで悲しくなる。
だんだんと自分のやっていることが情けなくなって、シエナは詰めていた息を吐き出しながらボソボソと素直に話しはじめた。
「お兄様がご友人と話していたんです。女性の胸を揉めば、殿方は、その、元気になると」
「………………なるほどね」
長い息を吐き出しながらグレゴリーが低い声で呟く。
その表情にはどこかすごみがあって、シエナはヒッと短く息を呑んだ。
「ごめんなさい。少しでもグレゴリー様が元気になってくださればと思って」
「俺を慰めようとしてくれたんだね」
「……はい。余計なお世話でしたが」
「いや、シエナの気持ちは嬉しいよ。ありがとう。でも、絶対に他の男に言っちゃだめだよ」
「もちろんです!!」