適当に話を聞き流しながら歩くと、溜まり場に着く。

…が、珍妙な光景が待ち受けていた。



「染野さん。摩天楼からお呼びです」

「摩天楼から…。わかった」



よほど急ぎの用なのだろうか。

溜まり場の入り口で、幹部直々に指示を受ける。


摩天楼に呼ばれるとは、滅多にないこと。

そもそも、摩天楼自体、幹部以上でないと入れない場所。

だから、摩天楼に呼ばれることは、上層部に呼ばれていることを意味する。

それも、特段上の方たちに。



「私も摩天楼に行ってもいい?」



腕を絡ませたまま、女が言う。

上層部の娘という立場から、コイツも摩天楼に入れる。



「ダメです。染野さんだけ、と厳しく言われております。今、摩天楼には本の一部の方しかおりません。現に私も追い出されましたし」



ピシャリと告げる幹部。

その言葉に、惜しそうに腕を解く女。



「本当残念…。ねぇ紫杏、ホントに今夜遊んでくれないの?」

「今日に限らず、遊ぶ気ないんだけど、俺。
何回言ったらわかるわけ」

「…っ、」