「紫杏〜!今から帰るところなんだけど、一緒に行こう?」
突如聞こえた、高い女の声。
香水のキツい香りに、甘ったるい声。
思わず、顔が歪めそうになった。
「…いいけど、溜まり場の手前までだよ」
「ふふっ、ありがとう」
本来なら断りたいところ。
…だけれど、厄介なことに相手は裏社会の上層部に位置する方の娘。
愛想笑いを張り付けておく。
「ねー、聞いたよ。最近、女遊びしなくなったんだって?」
「それが何なの」
腕を絡ませてくる女。
香水のキツイ香りが移りそうで、とても嫌だ。
「今日、夜は空いてないの…?」
「空いてないけど。ていうか、俺、そーゆーのもうする気ないし」
「えー…残念。一度くらいしてみたかったのに」
不服そうに言われる。
俺がこの女といる時間、宮西クンが花澄ちゃんを独占してると思うと。
…思考を掻き消すように息を吸って、吐いた。