「そっか。美味しかったのか」
「はい。……あんなに嫌いだった和菓子が、あの瞬間に美味しいと感じたのは、あの時が初めてでした」
この店の和菓子の定番である黒糖饅頭を食べた瞬間に感じた。 この店の和菓子は、とにかく人を幸せにする和菓子、なんだと。
食べた瞬間に口の中に広がる黒糖の甘い香り、そして黒糖の優しい甘さ、滑らかなこしあんの口当たり。
黒糖饅頭のハーモニーが奏でる和菓子そのものの味に、私は食べた瞬間に心底惚れた。
「私はその時、初めて和菓子が好きになりました。 和菓子があんなにも美味しい物だって知って、和菓子をもっとみんなに食べてもらいたい。そう思いました」
「……そっか」
悠月さんはなんとなく、嬉しそうな表情を浮かべていた。
「和菓子は魅力的なお菓子です。和菓子があんこと奏でるハーモニーは、格別に最高なんです。……だから私、働くならここで働きたいなって思ったんです」
和菓子を作る悠月さんの真剣な姿も見ることが出来るから、尚更嬉しいんだ。
「嬉しいこと言ってくれるな、菜々海は」
「そ、そうですか?」
「ああ。……和菓子は日本人にとって、かかせないお菓子だからな」