「なあ、菜々海はさ」

「は、はい」

 悠月さんとまともに話すことなんてあまりないけど、話す度にこうやってドキドキする。
 心臓が痛いし、音がドキドキしてうるさくなる。

「なんでこの店で働こうと思ったんだ?」

「え?」

 考えてみたらそんなことを聞かれたこと、確かに今までなかったかも……。

「いや、なんでなのかなって疑問に思っただけ」

 コーヒーの缶を片手に、悠月さんはそう言ってくる。

「……私、実は昔、和菓子が大嫌いだったんです」

「え!? そうなのか?」

 と、不思議そうな表情を浮かべる悠月さん。
まあ驚くのも無理はないけど。
 そう、私は小さい頃は和菓子が大嫌いだった。 むしろ、甘い物自体が大嫌いだったんだ。

「はい。……和菓子なんてこの世からなくなればいいのにって、本気でそう思ってました」

「そうだったのか。……じゃあなんで、この店に?」

 悠月さんが不思議に思うのも、無理はない。今では和菓子が大好きだから、私。
 でも和菓子を好きになったのには、ちゃんと理由がある。

「……ある時、ストーカーに追われている私を助けてくれた人がいたんです」