ようやく先頭の郵便物の手配が終わり、二人目の番になる。

時計を見ると、ここに来てから五分ほど経過していた。

「宮内~、まだ出せてないの?」

「あ、はい。今日に限ってすごく混んでて」

突然背後で話し声がする。後ろの男性の連れが様子を見にきたのだろう。

「英国大使館との約束の時間まで結構厳しいな」

「すみません。社を出る前誰かに頼めばよかったのに、俺がすっかり忘れてて」

「ったく。そんなんじゃ、ロンドン支社に赴任した後、畝松支社長にすぐ日本に送り返されるぞ」

ロンドン支社?

......ドクン。

「はい、気をつけます。そう言う小出さんは、畝松支社長との関係は大丈夫だったんですか?」

「まぁな。俺、お偉いさんの懐入るの上手いから」

「ははは、さすがです。僕も小出さんの後任としてその点もしっかり引き継がせてもらいます」

小出……?

このしゃべり方、声……そしてこのオーディコロンの香り。

前を向いたまま、息を潜める。

「この分だともう少しかかりそうだな。俺はコンビニで缶コーヒーでも買ってその辺で待ってるよ」

「はい、すみません」

すぐに後ろを振り返ると、一瞬だけその人の背中が見えた。

その背中だけでは、亮とはわからないけれど、恐らく間違いない。

ドクンドクンと大きく心臓が震えている。

今追いかけなくちゃもう二度と会えないかもしれない。

でも、この封書は早く出さないといけない。

どうしよう。

刻々と過ぎていく時間が私たちの間を引き裂いていくようだった。

やはり、あんなことがあった以上、私たちは再会を果たさずに幕を下ろせということなんだろうか。

亮も三年も経ってれば、音信不通の私のことなんか忘れてるよね。

そんなことを考えていたら、前にいた人が郵便物を出し終え、ようやく私の番になった。


「あれ、小出さん、どうかしました?」

後ろの男性がそう言った時、私の肩が背後からぐっと掴まれる。

「瑞希さんだろ?」

その声の方に振り返ると、私の肩をしっかりと掴んだ亮が立っていた。

「ようやく見つけた」

下ろされかけた幕が再びゆっくりと上がり始める。


「お待たせしました~」

笑顔で見つめ合う二人の向うで郵便局員の間延びした声が響いていた。





☆おしまい☆

最後までお読み頂きありがとうございました。