夜の住宅街は、人通りもなく静まり返っている。

ぬぐってもぬぐっても流れ落ちる涙は、自分の奥底に眠っている本当の気持ちが外に出たいと暴れているように思えた。

もういいのかな。

自分を解放してやってもいいのかな。

嘘で縛られた自分を真の自分にしてあげても。

誰もいない公園のベンチに座り夜空を見上げると、上弦の月がまるでこちらを見て笑っているように見えた。

ジャケットのポケットに入れたままになっていたスマホを取り出し、月を画像に収めると、そのまま亮のLINEに送った。

突然、なんだ?って思われるよね。

私が結婚して、彼から一度も鳴ることのなかった電話が鳴るかもしれない。

一体私は何やってるんだろう。

もうすぐ亮はロンドンに行ってしまうというのに……。

画像を送ったすぐ後、亮からの電話が鳴った。

『どこにいる?』

亮の声はとても切羽詰まっているようだった。

どこかに向かって歩いているような息遣いを感じる。

「家の近くの公園」

『迎えにいく』

「何言ってんの?」

思わずこぼれる涙を拭きながら笑ってしまった。

『会いたいから』

私は少しだけ考えてから答えた。

「私も会いたいよ。今すぐ会いたい」

そう言った瞬間、胸のつかえがとれたように一気に呼吸が楽になっていく。

「駅に向かうね」

私はスマホを耳に当てたまま立ち上がるとそう続けた。

『わかった。車で向かうから瑞希さんちの最寄り駅前で待ってて』

電話を切ると、住宅街を抜け駅前の商店街に向かって歩く。

さっきまで重りがついたような足が羽根が生えたように軽く感じる。

私の中に、何か吹っ切れたような思いが生まれ始めていた。

正しいとか間違ってるとか、誰かの価値観で決められたくはない。

自分の人生は自分だけのものだ。

例えそれが誰かの目から間違っていると映ったとしても、例えそれが後悔することになるとしても、自分で決めたことは自分で責任とればいい。

失うものも得るものも、留まるものも離れていくものも、きっとどんな道を歩んでいたって、自分の人生に訪れるものだ。

それ以上に、自分の生き方に「嘘」だけはつきたくない。

それぞれが抱えるねじれた愛の先に嘘がなければ、いつかきっとよかったと思える日が来るはずだ。

商店街を明るく照らす電灯を見上げながら祈る思いで駅に向かって歩みを進めた。