充の動きが止まる。

そして、ゆっくりと私から上体を起こし、自嘲気味に笑った。

「やっぱりな」

やっぱり?

はだけたブラウスを手で押さえながら私もゆっくりと起き上がる。

充はソファーに座ると虚ろな表情で正面を向いたまま話始めた。

「いつか拒否られるんじゃないかって、いつかあきられるんじゃないかって、ずっと不安だった。いつも楽し気に仲間と飲んで帰ってくる瑞希……仕事から帰ってきて疲れた顔でソファーで寝てしまってる君に俺は必要な存在なんだろうかって」

彼はワイシャツのポケットから一枚の写真を取り出し私の前に差し出す。

「一週間ほど前に俺に届いた宛先不明の封筒に入ってた」

その写真は、山本課長から見せられたのと同じ二人がホテルにいた時の写真だった。恐らく奈美恵が課長と同じく腹いせに送ってきたに違いない。

「その男といい関係なの?」

「そんなんじゃないよ。これは……」

亮への思いが私の足を引っ張り、完全に否定したくなくて言葉に詰まる。

今初めて聞いた充の気持ちなんてこれっぽっちも想像していなかった。

これまでの自分が酷く愚かだったように感じる。

テレビの楽しげな音が唯一私たちの沈黙の間を取り持っている。

「俺は子供なんかいらない。瑞希がそばにいてくれればそれだけで十分だったんだ」

時に愛はその苦しさから間違った方向へねじれていく。

百合も奈美恵も私も亮も、そして充も。

「こんな写真見せられた以上、瑞希の言うことが全て信じられない。まさか、この男との子を妊娠して、俺に既成事実でも作らせようって魂胆か?」

薄ら笑いを浮かべてそう言った彼の頬を、気づいたら思い切りひっぱたいていた。

本当はわかってる。充だけがひどいんじゃない。

今日ついた亮と課長への嘘も、充にずっとごまかしていた気持ちも、亮との関係を否定できなかった自分も、今の充以上にずるいしひどい。

色んなことがくやしくて、彼を睨みつけた目から涙が一筋頬を流れ落ちる。

私は震える体でなんとか立ち上がると、椅子にかけたジャケットを羽織りそのまま玄関を飛び出した。