その電話の相手は小出 亮(こいで りょう)、二十五歳。

私の勤める五条ワールドコーポレーション、食品開発事業部営業二課の後輩だ。

いかにもやんちゃそうないたずらっぽい目を光らせて、年上の私にも最初から甘え上手。ため口だし、手を焼きそうだったけれど仕事は完璧、気遣いも上等。運動神経抜群のマルチ野郎で180㎝もある高身長と小さい顔に整った顔立ちで社内でもトップクラスのモテ男らしい。

モテ男っていうのは自分で言ってるもんだからそれが真実かどうかはやや怪しいけれど。

私は、崎山 瑞希(さきやま みずき)、二十八歳。

営業二課の管理部門で庶務を担当している。

身長は155㎝で、いつも亮には「おちびさん」と頭をポンポンされるが、特に気にしたことはない。運動神経も頭も顔もごく標準。取り柄と言えば愛嬌のある笑顔とお酒がめっぽう強いってことくらい。


「いきなり何よ?結構飲んでる?」

午後十時、私は既にパジャマ姿でベッドに寝っ転がって電話に出ている。

一人暮らしのあいつはほぼ毎日食事を摂るついでに飲んで帰るタイプ。私以上にお酒は強い方だ。

私もよく誘われて、都合がつく時は一緒に飲みに行く。

基本二人きりじゃなく、私の同期や亮の同期と一緒にだけどね。

別段二人で行ったところで、飲み仲間という関係だったから特に問題はなかったけれど、なぜか二人で行ったことはなかったっけ。



「俺のメール見なかっただろ」

電話の向こうで明らかにむくれた様子の亮が低めのトーンで言った。

「メール?」

「社内メールだよ。」

「何か送ってくれてた?」

「やっぱ見てないんだ。飲みの誘いだよ。返信待ってたのにさ、お陰でこんな時間だよ」

「あはは、ごめんごめん。今日は残業で疲れちゃってメール確認せずとっとと帰っちゃった」

「ったく、おもんね……じゃ、おやすみ」

そう言っていつものようにあっさりと電話は切れた。

へー、二人で飲みに行きたかったのかな。めずらしい。

何か特別な話でもあったんだろうか。

しかもいきなり「結婚なんかするなよ」なんて、本当にわけわかんない。

そんなことを思いながら、気がつくと睡魔に負けてコトンと寝てしまった。


そして、それが亮からもらった私独身最後の電話だった。