それからの亮は海外赴任の準備で毎日慌ただしそうだった。

色んな手続きや語学の勉強。

今までの仕事は全て後輩に引継ぎ、ほとんど席を空けている状況。

そんな彼の姿は寂しくもあり、頼もしくもあった。

時々、席に戻ってきた亮にくだらない冗談メールを送ってみる。

返信こそはないけれど、メールを確認したらすぐにこっちを振り返り、口パクで「なにやってんだ」とか言いながら苦笑する。

少し困った顔で笑う亮を見たくて、ついつい何度もやってしまう。

大人げない先輩だと思いながら、たったそれだけのことで心が満たされた。

自分の気持ちがどんどん亮に惹かれていくのを感じる。

誰かを好きになる時は、毎日倍々で膨らんでいくものなのだと久しぶりに思い出した。

よほど自分は愛に飢えていたのかもしれない。

充とは相変わらずだったから。

会話は私がしなければほとんどない。もちろん充が私を求めてくることも……。

リビングにはいつもテレビの音だけが響いている時間が増えていった。

これじゃいけないと頭ではわかっているのに、私の亮への思いを止める術が見つからない。

まさか、これが百合の言ってた婚外恋愛?

いや、そんなはずはない。キスだけで完全なるプラトニックだから、全く違うんだと必死に自分に言い聞かせる。

亮がロンドンに発つまでの間、ほのかな淡い恋心を持つくらいなら神様は許してくれるはずだと思っていた。