亮とはホテルのロビーで待ち合わせをしていた。

こんな場所で亮と二人でいるところを誰かに見られたら、誤解されるかもしれない。

亮が来たらさっさとバーへ上がってしまおう。

ロビーのソファーで落ち着きなく待っていたら、すぐに亮がホテルの入り口から入ってきた。

こちらに向かってゆったりと歩いてくる彼は、いつも皆で飲みに行くのと違う人みたいに見える。

仕立てのいい濃いグレーのスーツは長身で体格のいい彼にきれいにフィットしていて、前髪が僅かにかかる目はアーモンド型で聡明さを湛えていた。整った顔立ちとスタイルの良さはまるでモデルさながらだ。

こんなにまじまじと彼を見たことがなかったから、いつの間にこんなかっこいい男性になってたんだと驚く。

「ごめん、遅れて」

「ううん。私も今来たところ」

二人だといつもの調子が出ないのは亮も同じなのだろうか。なんだかぎこちない空気が二人の間に流れている。

まるで、初めてのデートみたいな緊張感。あんなにも何度も飲みに行ってるのに。

二人で乗った広くてラグジュアリーな雰囲気のエレベーターは貸し切り。

扉の対面は全面透明なガラスで、エレベーターが浮き上がるにつれて、都会の夜景が視界に広がっていく。

「きれい」

ガラスに張り付くように夜景を見つめた。

「年甲斐もなく張り付きすぎだって」

亮は苦笑しながら私の頭をこづく。いつもの彼の減らず口が今は心地いい。

あっという間に最上階の三十一階に到着した。

もっと乗っていたかったと思いながら、エレベーターを降りると、そこはもうバーの中。薄暗い店内一面、エレベーター以上の夜景が見渡せるようになっていた。

すぐそばに来たウェイターに亮が自分の名前を告げると、奥の方へ案内される。

そこは、バーの個室だった。

ゆったりとした二人がけのソファーとテーブルの向うに広がる夜景は独り占めだ。

「亮、すごいじゃない。こんなところ初めて。よく使うの?」

「喜んでもらえて何より。仕事で一度使ったっきりだけどね」

「なんだ。彼女さんとでも来てるのかと思ったよ」

少しいたずらっぽく笑いながら彼に顔を向ける。

「んな相手いないし、こんな高級なバーの個室なんて、俺だってプライベートじゃ初めてだよ」

亮は私からすっと目を逸らすと照れ隠しのように前髪をかき上げた。

そうなんだ。

なんだかそれって、嬉しいよね。

「今日はありがとうね」

素直に亮に伝えると「別に」と言って彼はソファーに腰を下ろした。