「俺が受験に合格した日、お前が、俺から離れた日……具体的に何かは分からないけど……俺はきっと……お前を傷つけたんだよな」

イエスと、言いたくなかった。

「でも……本当にそれだけだったのか?お前が俺から離れた理由は」

これは、イエスと、言うべきだと思った。

「教えてくれ。でないと俺は……」

理玖も、涙声になっていた。
その声で気づいてしまった。
次に続く言葉が、一体何か。

「ねえ理玖……言って」
「…………美空…………言いたくない……」
「きっと、私の気持ちと、同じだと思う…………だから、お願い…………」

私も彼の頬に左手を添えた。
涙の跡が、冷たかった。

「お願い、理玖。私の代わりに言って」
「俺は待ってたんだ……美空」
「うん……」
「お前は?違ったのか?もう2度と、俺と会う気はなかったのか?」

頷くべきだと思った。
それは事実だから。
でも、理玖の涙交じりの声は、私の動作の全てを止めてしまう。

「他の男の横に立つお前を見て、俺がどう思ったか……お前に分かるか?」

どんどん、理玖の涙で私の手が濡れていく。
まるで、ダイヤが落ちたかのような綺麗な涙だった。
私には、もう決して流せない純粋な涙。

「どうして、今現れた。どうしてもっと前じゃなかった?」
「理玖?」
「それがダメなら……いっそ……このまま現れないでいてくれた方が良かったのに……」

理玖は、それから長く息を吐いた。
それは、理玖が何かを心に決めた時に行う癖のようなものだと、私は知っていた。

「美空……」
「ん…………」
「俺は、前に進まないとダメか?」

その言葉の意味は、私たちの完全なる決別。

「そうだね」

と私は言おうとした。
でもその前に、理玖の整った唇が私の言葉を封じた。