「美空。もう、気づいてるよな……この店……お前に気づいてもらう為に作ったんだってこと」

知りたくなかったと、言うべきだったのかもしれない。
1度冷たく突き放したのなら、突き放し続けるべきだった。
でも私は、こくりと頷いてしまった。
それを見た理玖は、本当に嬉しそうに微笑みながら、右手の親指で私の唇を撫でた。

「じゃあ……俺が、お前が作るアクセサリーのデザインに嫉妬してたのは?気づいてた?」
「え……?」

私の間抜けな返事に、理玖は苦笑しながら

「お前は、スケッチに指輪やネックレスのデザイン描き溜めてる時……すげえ良い顔すんの。俺とセックスする時より、ずっと」
「そ、そんなこと……」
「あるんだよ」

そう言うと、理玖は私の額にこつんと自分の額を当ててきた。

「ちょっと、理玖!?」

理玖が愛用しているシャンプーの香りが、鼻腔をくすぐる。
一緒にバスルームで愛し合った日の記憶が瞬時に蘇る。

「俺さ……お前は、きっとどこかでアクセサリーの事を考え続けているだろうって思ってた。だから、お前に気づいて欲しくて……アクセのこと、大学で真剣に勉強して、作り方覚えて……賞取れるようになって……店作った。なあ、何でだと思う?」

これ以上、聞いてはダメだとわかっているのに、彼の右手は今、私の頭を押さえている。
私を離さないという意志が、手のひら越しに伝わってくる。

「お前が、俺のことを調べてここに来てくれるのを、待ってた。お前は、俺に何も残してくれなかったから、俺が動くしかなかった」
「どうして……」

私の目から、小指の大きさ程の涙がぽつりぽつりと落ちて、テーブルで跳ねた。

「どうしてそこまで……?」
「謝りたかったから」

理玖は、いつの間にか私の左手から手を離していたのか、その左手で私の目をぬぐい始めた。