「……待ってたんだ。お前が、大学に来るのを」

理玖が受かり、私が落ちた大学のことだろう。

「それは……無理だよ」

だって、次元が違いすぎたんだから。
あの大学は、私なんかの才能では、決して入ってはいけない聖域だと、思い知らされてしまったから。
他の誰でもない……私が愛した人のせいで。
理玖は、私の真意に気づいてるのか気づいてないのか、私の手を握る左手に力を込めてきた。

「じゃあ、アトリエは?何で来なかった?」
「だって、それは……」

行けるはずないじゃないか。
酷いことを言ってしまったんだから。

この年になってあの日のことを思い返してみれば、理玖は何も悪くないことが分かる。
理玖は、いつだって真剣に美術を極め、私を想ってくれていた。
こうして、肌に触れる時すら、私に痛みを与えまいと、ガラス細工を作るかのように優しかった。
理玖に触れられる度に、私は理玖によって芸術品として高められているような気にすらなれた。
それを誰よりも知っていた私が、怒りを、憎しみをぶつけたのだ。

許されて良いはずなんか、ないじゃないか。