本ベルが鳴ると同時に、客席の明かりが落ちる。
ホール内は静けさに包まれ、団員が入場を開始する。
客席からは拍手が起こる。
入場と同時に拍手が起こるのは、俺の知る限りではアマチュア団体だけだ。
プロの団体の場合、コンサートマスターの入場までは、拍手は起きない。
何故かは知らないが、考えられる理由のひとつとしては、アマチュアの吹奏楽愛好家があまりプロの団体を聴きに行かないから、と言うのがある。
飽くまで俺の勝手なイメージだけど、吹奏楽に於いては、あまりプロとアマチュアの交流がない。
むしろアマチュア同士の方が交流があるイメージだ。
まぁ、この話は、またの機会にすることにしよう。
今じゃない。今は、とにかく目の前の演奏に集中しないと。
「樋口君、緊張してる?」
真里先輩が、俺の顔を覗き込みながら聞く。
『大丈夫です。多少は緊張してますけど。』
…どうしてこう、美人というのは皆人の顔を覗き込むんだ?w
いや、これは、俺がこの仕草に弱いだけかw
真里先輩は、とんでもなく美人だ。(こんなことを言ったら結に怒られそうだけどw)
もはやモデルでも食べていけそうなレベルである。
けど、それ以上に、打楽器が上手い。鍵盤だけでいうなら、間違いなく学校1だ。
だから、先輩卒業後のことに悩んでいたというのは、実は意外だった。
このレベルの人なら、何も迷う必要なんてないと思っていた。
逆に、このレベルの人でも悩むのかと思った。
だとしたら、俺は卒業するまでに今の先輩を超えていなければいけないことになる。
それはかなり難しい。
もちろん、人と比べてどうなのかを基準にはしないし、俺は俺だと割り切って頑張るしかないんだけど。
あぁ、また話が逸れている。
どうやら俺は、自分で思っている以上に緊張しているようだった。
一度深呼吸する。
…さて、やるか。
打楽器の団員に続いて入場する。
楽器の間を通ってドラムセットに向かった。
スティックは、楽器と一緒に置いていた。
ステージへの照明が一気に明るくなる。
そして、指揮者が入場し、団員全員を立たせる。
いいね。この緊張感。やっぱり、演奏会はこうじゃないと。
全員が再び座ったところで、指揮棒が上がる。
ロングトーンと共に曲のイントロが始まった。
いいテンションだ。団員のサウンドから、意識が集中していることがわかる。
今までで1番いいサウンドだ。
ハイハットのカウントで、ガラッとテンポを変えて曲が始まった。
いい。今日は1番ついてきてくれている。
あっという間に2コーラス目に入った。
さて、俺の仕事は、ここからだ。
2コーラス目からは、Aメロが変わり、吹いている楽器も変化する。
練習でもここが1番崩れやすかった。
俺は、楽譜から目を離し、指揮者だけに集中する。
この指揮者、というか指導者の方は本当に優秀で、本番で崩れてしまうことも多い
アマチュア団体の演奏を、何度も指揮で救っているらしい。
俺も、この竹島さんの指揮は、初対面から「見やすいな」という印象を持っていた。
できるなら、こういう人とこれからも一緒に仕事をしたいと思う。
俺は、指揮者と団員のテンポ感を上手く繋げられるよいうな位置で演奏を続けた。
すると、メロディを吹いている木管楽器が俺につけ始めた。
よし。ここで少しだけ音量を上げる。
皆、ここが正解だ。今だけは俺についてきてくれ。
素晴らしい。指揮者も俺に付けてくれた。
よし!ここだ!
全員のテンポ感が一致したところで、2コーラス目のサビに入った。
俺は、曲中1番の音量で頭にシンバルを入れた!
これだ!と思った。
バンド全体の意識が一点に集中し、客席の空気感も飲み込んで曲中最大の山場を作った。
アマチュアの団体でも、ここまでの演奏ができるものなんだと感心した。
いや、感動した。
ありがとうございます。いい経験をさせていただきました。
吹奏楽の中でドラムを叩く機会はそんなに多くはないが、だからこそ貴重な経験だし、もしかしたら、そこに自分にしかできないことがあるかもしれない。
まだまだ未知な世界だけど、努力し続ける価値のある世界だと思った。
着替えを終えて、楽屋を出た。
そのまま搬入口の方へ向かった。
団員の方を中心に、楽器の解体が始まっていた。
俺もそこに加わって、解体と梱包を始める。
「あぁ、樋口さん、ありがとうございます!」
団員の1人が、満面の笑みで挨拶をしてくださった。
つられて俺も笑顔になる。
『いえいえ、打楽器は大変ですよね。』
真里先輩もあとから合流して、あっという間に積込みまで終えた。
団員を含めて全員が、空になったステージに改めて集合した。
団長の挨拶だ。
「えぇ、皆さんお疲れ様でした!今回は、特にいい演奏だったんじゃないでしょうか?私もお客さんから直接聴きましたが、2部が素晴らしかったと言う声が多かったようです。」
「これは、今回初めてご参加いただいた樋口さん、それからいつも来てくださっている鈴木さん、竹島先生のおかげかと思います。皆さん、改めてお礼を言ってくださいね。」
「お客さんからのお声はアンケートがありますので、後ほど打ち上げの時に読んでください。」
かなりいい手応えだったようだ。団長が目に涙を浮かべている。
「エキストラの方々のお力に感謝しつつも、自分達がもっといい演奏ができるように頑張っていきましょう!お疲れ様でした!」
全員同時に「おつかれさまでした!」と返して一旦解散になった。
「あ!エキストラの方は打ち上げ無料ですので、是非いらしてくださいね!」
その後は、団員の方々から沢山感謝のお言葉をいただいた。
本当、参加できてよかったと思っている。
さぁ、打ち上げまで少し時間があるし、結に連絡してみよう。
きっとどこかで待っていてくれているはずだ!
結とは、ホールの建物に入っている喫茶店で待ち合わせた。
『おまたせ』
結は、窓際のテーブル席にいた。
「んん、お疲れ様!演奏すごかったよ!さすが!」
声と表情から、結も少し興奮気味であることがわかった。
『ありがとう。今回は、俺もいい手応えを感じたよ。参加してよかった』
「うんうん!指揮者の方も、すごくいい仕事をされてたね!」
さすが結。よく見ているし、よく聴いている。
「私も吹奏楽指導法を勉強しようかと思ったわ!」
いいね!
『いいと思う!結に合ってるかも!』
俺は、素直な気持ちを伝えた。
「ありがと!あ、恒星時間は大丈夫なの?」
『うん、打ち上げまで、まだ少し時間があるから!』
「よかった!じゃぁ、もう少しお話しましょ!今日は、伝えたいことがいっぱいあるの!」
実は、ここで2人で話した内容が、俺達の将来に大きく影響を与えることになる!
そう言う意味でも、俺は、今日のことは一生忘れないだろう。
ホール内は静けさに包まれ、団員が入場を開始する。
客席からは拍手が起こる。
入場と同時に拍手が起こるのは、俺の知る限りではアマチュア団体だけだ。
プロの団体の場合、コンサートマスターの入場までは、拍手は起きない。
何故かは知らないが、考えられる理由のひとつとしては、アマチュアの吹奏楽愛好家があまりプロの団体を聴きに行かないから、と言うのがある。
飽くまで俺の勝手なイメージだけど、吹奏楽に於いては、あまりプロとアマチュアの交流がない。
むしろアマチュア同士の方が交流があるイメージだ。
まぁ、この話は、またの機会にすることにしよう。
今じゃない。今は、とにかく目の前の演奏に集中しないと。
「樋口君、緊張してる?」
真里先輩が、俺の顔を覗き込みながら聞く。
『大丈夫です。多少は緊張してますけど。』
…どうしてこう、美人というのは皆人の顔を覗き込むんだ?w
いや、これは、俺がこの仕草に弱いだけかw
真里先輩は、とんでもなく美人だ。(こんなことを言ったら結に怒られそうだけどw)
もはやモデルでも食べていけそうなレベルである。
けど、それ以上に、打楽器が上手い。鍵盤だけでいうなら、間違いなく学校1だ。
だから、先輩卒業後のことに悩んでいたというのは、実は意外だった。
このレベルの人なら、何も迷う必要なんてないと思っていた。
逆に、このレベルの人でも悩むのかと思った。
だとしたら、俺は卒業するまでに今の先輩を超えていなければいけないことになる。
それはかなり難しい。
もちろん、人と比べてどうなのかを基準にはしないし、俺は俺だと割り切って頑張るしかないんだけど。
あぁ、また話が逸れている。
どうやら俺は、自分で思っている以上に緊張しているようだった。
一度深呼吸する。
…さて、やるか。
打楽器の団員に続いて入場する。
楽器の間を通ってドラムセットに向かった。
スティックは、楽器と一緒に置いていた。
ステージへの照明が一気に明るくなる。
そして、指揮者が入場し、団員全員を立たせる。
いいね。この緊張感。やっぱり、演奏会はこうじゃないと。
全員が再び座ったところで、指揮棒が上がる。
ロングトーンと共に曲のイントロが始まった。
いいテンションだ。団員のサウンドから、意識が集中していることがわかる。
今までで1番いいサウンドだ。
ハイハットのカウントで、ガラッとテンポを変えて曲が始まった。
いい。今日は1番ついてきてくれている。
あっという間に2コーラス目に入った。
さて、俺の仕事は、ここからだ。
2コーラス目からは、Aメロが変わり、吹いている楽器も変化する。
練習でもここが1番崩れやすかった。
俺は、楽譜から目を離し、指揮者だけに集中する。
この指揮者、というか指導者の方は本当に優秀で、本番で崩れてしまうことも多い
アマチュア団体の演奏を、何度も指揮で救っているらしい。
俺も、この竹島さんの指揮は、初対面から「見やすいな」という印象を持っていた。
できるなら、こういう人とこれからも一緒に仕事をしたいと思う。
俺は、指揮者と団員のテンポ感を上手く繋げられるよいうな位置で演奏を続けた。
すると、メロディを吹いている木管楽器が俺につけ始めた。
よし。ここで少しだけ音量を上げる。
皆、ここが正解だ。今だけは俺についてきてくれ。
素晴らしい。指揮者も俺に付けてくれた。
よし!ここだ!
全員のテンポ感が一致したところで、2コーラス目のサビに入った。
俺は、曲中1番の音量で頭にシンバルを入れた!
これだ!と思った。
バンド全体の意識が一点に集中し、客席の空気感も飲み込んで曲中最大の山場を作った。
アマチュアの団体でも、ここまでの演奏ができるものなんだと感心した。
いや、感動した。
ありがとうございます。いい経験をさせていただきました。
吹奏楽の中でドラムを叩く機会はそんなに多くはないが、だからこそ貴重な経験だし、もしかしたら、そこに自分にしかできないことがあるかもしれない。
まだまだ未知な世界だけど、努力し続ける価値のある世界だと思った。
着替えを終えて、楽屋を出た。
そのまま搬入口の方へ向かった。
団員の方を中心に、楽器の解体が始まっていた。
俺もそこに加わって、解体と梱包を始める。
「あぁ、樋口さん、ありがとうございます!」
団員の1人が、満面の笑みで挨拶をしてくださった。
つられて俺も笑顔になる。
『いえいえ、打楽器は大変ですよね。』
真里先輩もあとから合流して、あっという間に積込みまで終えた。
団員を含めて全員が、空になったステージに改めて集合した。
団長の挨拶だ。
「えぇ、皆さんお疲れ様でした!今回は、特にいい演奏だったんじゃないでしょうか?私もお客さんから直接聴きましたが、2部が素晴らしかったと言う声が多かったようです。」
「これは、今回初めてご参加いただいた樋口さん、それからいつも来てくださっている鈴木さん、竹島先生のおかげかと思います。皆さん、改めてお礼を言ってくださいね。」
「お客さんからのお声はアンケートがありますので、後ほど打ち上げの時に読んでください。」
かなりいい手応えだったようだ。団長が目に涙を浮かべている。
「エキストラの方々のお力に感謝しつつも、自分達がもっといい演奏ができるように頑張っていきましょう!お疲れ様でした!」
全員同時に「おつかれさまでした!」と返して一旦解散になった。
「あ!エキストラの方は打ち上げ無料ですので、是非いらしてくださいね!」
その後は、団員の方々から沢山感謝のお言葉をいただいた。
本当、参加できてよかったと思っている。
さぁ、打ち上げまで少し時間があるし、結に連絡してみよう。
きっとどこかで待っていてくれているはずだ!
結とは、ホールの建物に入っている喫茶店で待ち合わせた。
『おまたせ』
結は、窓際のテーブル席にいた。
「んん、お疲れ様!演奏すごかったよ!さすが!」
声と表情から、結も少し興奮気味であることがわかった。
『ありがとう。今回は、俺もいい手応えを感じたよ。参加してよかった』
「うんうん!指揮者の方も、すごくいい仕事をされてたね!」
さすが結。よく見ているし、よく聴いている。
「私も吹奏楽指導法を勉強しようかと思ったわ!」
いいね!
『いいと思う!結に合ってるかも!』
俺は、素直な気持ちを伝えた。
「ありがと!あ、恒星時間は大丈夫なの?」
『うん、打ち上げまで、まだ少し時間があるから!』
「よかった!じゃぁ、もう少しお話しましょ!今日は、伝えたいことがいっぱいあるの!」
実は、ここで2人で話した内容が、俺達の将来に大きく影響を与えることになる!
そう言う意味でも、俺は、今日のことは一生忘れないだろう。