「死者の、心……?」

「はい、そうです」

僕の前に突然現れた女性は、笑顔で頷く。

見覚えのない綺麗な女性。

僕は彼女の笑顔に誘われるように、立ち止まって話を聞いた。

彼女は死者の心分析事務所と名乗った。

冷静に考えたら有り得ないような話なのに、僕は妙にその話に惹きつけられていた。

母さんが亡くなって、ようやく少し心の整理がついてきて、学校に復帰したその日の帰り道だった。

「通常、人間の心は赤いのです」

女性は僕にカタログのようなものを見せながら、説明し始めた。

「見てください。正常な人の心はこんな色です。ただ、大きなストレスを抱えていたことがある方、精神的に追い詰められていたことがある方は、ほら、こんな風に、赤黒くなります。心を病んだ末に自殺を選んでしまった方の中には、ほぼ真っ黒な方もいらっしゃいます」

僕は、自分の心が真っ黒に染まっていくのを想像し、顔をしかめた。

それでも、女性は気づいていないのか、淡々と続ける。

「それから、心が溶けている方もいらっしゃいます」