最後に見た僕が、泣いている僕だったこと、逃げるように去ったこと。
母さんは悲しかったに違いない。

それからは、僕が話をかけても、母さんはほとんど反応を示してくれなかった。

僕も辛かった。でもいちばん辛かったのは母さんだったはずだ。

心は生きているのに、その内を伝えることができないのだから。

「母さん……ごめん……」

母さんの手を握る僕の手が震える。

10年間で、僕は成長した。

母さんの病気が発覚したときは小学校に入りたてだった僕は、高校2年生になった。

きっと、当時より心も成長している。

だからこそ、僕が見えるうちに、笑えるうちに、話せるうちに、僕の手を握れるうちに、もっと話しておけば良かったと後悔している。

母さんの病気は徐々に進行していく。立ち止まってはくれない。先延ばしなんて存在しない。

分かっていたはずなのに……。