よく転ぶようになったのは、足の筋肉が弱っていたせいだった。

やがてまともに歩けなくなって、車椅子を使うようになった。

今度は手が不自由になって、物をつかんでもすぐに落としてしまうようになった。

コップの水を自力で飲めなくなった。

自力でご飯を食べられなくなった。

僕はだんだんと病気の重さを実感させられるようになり、病院から帰ると突然不安に襲われ、涙が止まらなくなることもあった。

それでも、無情にも母さんの病気の進行は止まらなかった。

そのうち食物を嚥下する力もなくなった。

そこからは点滴が始まった。

どんどん母さんの身体は動かなくなっていく。

ついに母さんの声が聞けなくなったのは、僕が中学生のときだった。

話せない。表情の変化も少なくなった。

それでもあの日、母さんは、もう動かなくなったはずの手で、ペンを握って、もう片方の手を紙に添えて、何か文字を書いていた。