「亮くん。これ持っててください」

黒田さんは意外にもあっさりした声で、僕に小さな機械のようなものを手渡す。

「この画面を見ていてくださいね」

「……はい」

彼女は、棺桶に入った母さんの胸元と額に手を当てる。

目を瞑って、何かを念じているような険しい表情だった。

暫くすると、小さな画面にハートマークが現れた。

最初は鮮やかな赤色を放っていたハートマークが、徐々に黒ずんでいく。

全体に黒い煤のようなものを纏ったところで、動きが止まった。

「……相当苦しんでいらっしゃったのですね」

黒田さんは小さな声で呟くと、再び目を閉じて母さんに両手を合わせた。

「で、でも……溶けては、いないですよね」

「はい。分析してみたところ、お母様は学生時代、辛い思いをされてきたようです」

「……え」

「詳しくは言わないでおきますが、複雑な家庭環境、学校でのいじめ。ご自身で命を絶とうとしたこともあったみたいですね」

彼女は他人事のように、事務的に分析結果を読み上げる。

それが仕事なんだろうけれど、母さんの壮絶な過去を前にして、僕の目には彼女が薄情な人間に映る。