夏休みも終わり、二学期がスタートして1週間ぐらいが経った頃だった。
先輩との仲も良好で、最近はいつも一緒にお昼ごはんを食べることが多い。
「まーしろちゃんっ。手繋ごう?」
「あ、はい!」
先輩との帰り道。
手を繋ごうとしたその時だった。
「あ、あの!真白さん!」
「……?はい」
後ろから声をかけられて、慌てて振り向く。
「あ、一弥くん?」
この人は同じクラスの頭のいい、七宮一弥くんだ。
「どうしたの?」
「あ、え、えっと……真白さんに、伝えたいことがあって……」
「伝えたいこと?なぁに?」
どうしたんだろう……なんだか耳が真っ赤だけれど……熱でも出ちゃったのかな?
「……ごめんね七宮クン」
「?先輩……!?」
ぎゅっと後ろから先輩に抱き締められる。
「この子、僕の彼女だから」
「……え……」
一弥くんは絶望したような顔をしている。
「そ、そうなの?真白さん」
「へっ!?あ、う、うんっ……私たち、付き合ってるんだ……」
うううっ……恥ずかしい……。
「へぇ……そうなんだ」
「うん……。あ、それで伝えたいことって……?」
「ううん、また今度にする。じゃあね」
「あ、バイバイ!」
後ろを向いて、歩いて行ってしまった一弥くん。
「……なんだったんでしょうね〜」
「ふふっ、ね?真白ちゃんは鈍感で可愛いなぁ。……さすがに許せないけど」
「?な、なんか私変なことしましたか!?」
「ふふっ、ううん」
先輩はなぜか不敵の笑みを浮かべる。
「真白ちゃん、ずーっと僕と一緒にいてくれる?」
「は、はいっ……!私なんかでよければっ……!」
ずっと、一緒にいたい……!!
「私なんか?真白ちゃん、私なんかとか言わないで?真白ちゃんは女神なんだから」
「またまた……大袈裟ですよ。けど、ありがとうございますっ……嬉しいです」
「ふふっ、大袈裟なんかじゃないんだけどなぁ。」
「大袈裟ですよ。あ、でも、先輩は王子様みたいですっ……!」
い、言っちゃった……!
ちょっと、いやとっても恥ずかしかったけれど……いつも先輩は私のこととっても褒めてくれるから、たまには言い返したくて。
「……なにそれ、めっちゃ可愛。ふふっ、ありがとうね、真白ちゃん」
「い、いえっ……!」
よかった、喜んでもらえてっ……!
こんな感じで、私たちはいまとっても、ラブラブっ……なのかな?
***
その3ヶ月後、色々な行事があったけれど、先輩とも仲良く、甘やかされながら時が過ぎた。
そして、1月。
なんと、先輩の誕生日は1月8日。
実は……1月8日は、明後日なのだ。
プレゼント、とってもあげたい……。
けど……どんなものあげればいいかわからない。
というこで、いまは莉奈ちゃんの家で莉奈ちゃんに相談中だ。
「んー。なにがいいんだろうね」
「うん……全然わからない……」
「まぁ、あの溺愛先輩のことだし、『真白ちゃんからもらったものならなんでも嬉しいよ』とか言いそうだわ」
「あはは……」
たしかに先輩はとっても優しいから、あり得る……。
「んー……あ!じゃあ、おそろいのなにか買ったら?」
「おそろい?」
「うん、小さいぬいぐるみのキーホルダーとか!」
「あ!それいいかも!」
小さいくまちゃんとかのキーホルダーで、おそろいでつけられたらいいな……!
よし、先輩へのプレゼントはおそろいのキーホルダーで決定だ!
「私も莉央に買いたいものあるし、一緒に行かない?」
「あ、うん!やったー!」
その時、スマホが震える。
……?メール?
あ、先輩からだ……!!
ドキドキしながらメッセージを開く。
と……。
【真白ちゃん、今日暇だったら美味しいもの食べない?】
そんなメッセージが届いていた。
っ……た、食べたい……。
けど、それよりも先輩へのプレゼントを買わなくちゃ。
どうにか我慢をして、先輩へ
【すみません……!今日は用事があるので】
そのメッセージを送った。
「どうかした?」
「あ、ううん!じゃあ行こう!」
「うん!」
そして、3時間後。
買い物を終えて解散して、いまに着いたところだった。
ガチャンッ
「ただいまー!」
「……あ、おかえり真白ちゃん!」
「……え?」
千星、先輩……!?
「な、なんで先輩がいるんですか!?」
「真白ちゃんのお母さんに仕事が忙しいから真白ちゃんの面倒見ててって言われて」
「えええっ……!?」
お、お母さん千星先輩と親しすぎじゃ……!?
「……それでさ、こんな時間までどこ行ってなにしてたの?」
「こ、こんな時間って、まだ4時ですよ!?」
「十分遅いよ」
いやいや全然遅くないでしょ……!
「誰といたの?」
「莉奈ちゃんです」
「……嘘だね。詳しく聞かせてもらうから」
「えええ……」
逆に莉奈ちゃん以外に誰と出かけてるのって感じなんだけど……。
ひとまず荷物を置いて、手を洗う。
……はぁ……どうやって誤解を解こうか……。
「え、えっと、先輩」
「こっちきて」
ソファに座っている先輩はぽんぽんと膝を叩いてまるで私にここに座れと言わんばかりの顔をする。
とりあえず私は先輩の隣に腰掛けた。
「……ここ、座ってよ」
「そ、それはさすがにできません……!」
「なんで?だって僕たち付き合ってるでしょ?」
「け、けど……」
そんなの、ドキドキしすぎて心臓もたないよぉ……!!
「むむっ……無理です!恥ずかしすぎます!それに、重いですよ私」
「ふふっ、重いわけないでしょ」
「!?」
私の頬を手のひらで包み込んだ先輩は、次第に頬を摘んで引っ張る。
「ひぇ、ひぇんあいっ……?」
「ふふっ、可愛い」
「な、ないすうんでうか……!?」
(なにするんですか!?)
「ん〜?なんだろうね〜」
っ……!完全に遊ばれてる……!!
「ううっ……やへてくだはい……」
「あはは、ごめんごめんちょっと意地悪しすぎた」
「もう……」
「あ、そうだ」
「へ?」
先輩はハッとしたような顔をして、私の脇に手を当てて抱き上げ、膝に乗せられてしまった。
「本当、軽すぎて心配になっちゃうな」
「うううっ……」
先輩の向きに座っているから視線がぱっちり合っていて、恥ずかしい。
「恥ずかしがってるの?ほんと可愛いんだけど」
そう言った先輩はぎゅっと私を抱きしめ、首筋に顔を埋めた。
「く、くすぐったいですっ……!!」
「我慢して」
「で、でもっ……ふふっ……あははっ……」
う、動かれると尚更くすぐったい……!!
「……ねぇ、真白ちゃん」
「?」
「キス、しよう?」
「ふぇ!?あ、は、はいっ……!」
よくわからないけれど……とりあえず、私は目を瞑る。
その時だった。
ガチャンッ
「ただいまー」
ま、真冬!?
慌てて私は先輩から離れる。
あ、危ない……見られるところだった……!!
「あーあ。残念。」
「ううう……」
本当に、恥ずかしくて死にそうだっ……。
「で、真白ちゃんはなんで悪いことしちゃったの?」
「え、姉ちゃんなんかしたんすか?」
「そう、僕のことほったらかして浮気」
「な!?浮気なんてしてません!!」
先輩は思い込みが激しい……!!
「じゃあ、正直に言ってよ」
「だから、私は莉奈ちゃんと買い物に行ってたんです!!」
「じゃあ、それなに?」
先輩が指を差した先にあるのは私が莉奈ちゃんと買ってきた先輩への誕生日プレゼントが。
「こ、これはっ……ひ、秘密です!女の子同士のことなんですから、突っ込んでこないでください!」
「へぇ……浮気相手との証拠品でも入ってるの?」
「だからちがいますってば!!」
けど、先輩に見せるわけにはいかない……!!
「……なに、見せてよ」
「だ、だめです!」
「……怪しい」
「だ、だからこれは……!!」
先輩への、誕生日プレゼントだからっ……!!
でも、だめだ!
どんどんとプレゼントに迫って行く先輩。
もう、正直に言うしかない……。
「先輩への、プレゼント、です……」
「……え?」
目を丸くする先輩。
「だからっ……先輩への、誕生日プレゼントを莉奈ちゃんと買ってきたんです……!!!」
「それ、本当?」
「はい!嘘なんてついてません」
「……ごめん、僕すっかり勘違いして……」
「いえ。私こそ、すみません……先輩を不安にさせてしまって……」
「いや、真白ちゃんは悪くないよ。ほんっとごめん。僕、真白ちゃんが誰かに取られたら嫌だって思ってる感情が勝っちゃって……」
そっか……それは、きっと先輩が私を一途に思ってくれてるってことな証拠だ。
「なんだか、複雑だけど嬉しいですっ……!!」
「あー……ほんと真白ちゃん優しすぎて天使」
「え、えへへっ……大袈裟ですけど嬉しいです……」
天使だなんて、言われたことな———
『真白ちゃんは、天使みたいだね』
あ、あれ……?
知らないはずなのに、どこか懐かしい相手が頭をよぎる。
だ、誰……?
とっても綺麗な可愛らしい顔をした少年が、泣きながら私にそう言ってくれている映像が流れる。
「っ……!」
「?真白ちゃん!?どうしたの?」
先輩に両肩を掴まれてハッとする私。
「あ、いえっ……!な、なんでもありません……!」
「そっか……。ならよかったけど……」
心の底から心配しているような先輩。
その姿は、どこかで見たことのあるような気がした。
重なる、懐かしい感じの姿。
クリーム色の優しい髪色に、綺麗な紫の瞳の千星先輩に、
その姿と重なって、きっと千星先輩の小さい頃はこんな感じなんだろうなと思えてしまうぐらいの少年。
けれど……きっと、私の妄想だ。
先輩と小さい頃からいたかったと言う、ただの妄想。
*
2日後、先輩のお誕生日にプレゼントを渡すことができた。
「え、めっちゃ可愛いし嬉しい!ありがとう真白ちゃん!!家宝にするね!!」
「えへへ、喜んでくれてよかった!」
いつも通り大袈裟に褒めてくれる先輩。
とっても嬉しかった、けれど……。
なんだか、モヤモヤしている。
もしかして、私は先輩と小さい頃会っていた……?
そんな、期待なのか理想なのかわからないことが、ずっと頭の中を呪っているようだった。
*
これは、僕がと真白ちゃんが幼い時のこと。
僕たちは、偶然にも出会うことができたのだ。
それは、僕がもう勉強が嫌で屋敷を抜け出した時のこと。
『はぁ……はぁ……』
バタンッ
屋敷からずいぶん離れたところまで全力疾走をして、もう力もなく倒れてしまった。
『っ!大丈夫?』
そこに手を差し伸べてくれたのが、真白ちゃんだった。
キラキラして、当時の僕には天使、いや女神に見えた。
『あ、ありがとう、ございます……』
『ふふっ、いえいえ。あ、血出ちゃったね、膝から……』
『このぐらい別に……』
『だめだよ!あそこに公園あるから、そこで洗おう?』
優しく微笑んでくれる真白ちゃん。
『わかり、ました』
公園につき、膝を洗い、そのあとは真白ちゃんが持っていた絆創膏を貼ってもらった。
本当に、こんな親切してくれるなんて、きっと僕が誰か知っていてお金目当てなんだななんて思っていたけれど……。
『僕のこと、知ってますか?』
そう問うも、真白ちゃんは本気でわからないような表情をして、
『ご、ごめんなさい……知らないです……』
申し訳なさそうに、そう言った。