勝利は目前だった。
 だがそんな時が、一番危ないのかも知れない。

「だめっ! 下がって!!」

 裕子がなんでもないリバウンドを奪われて、一気に速攻をかけられた。
 早めに下がった萌音がコースを塞ぎにかかったけど、敵は萌音の目の前でボールを左サイドに振った。

 さっき私と競り合った敵のポイントガードから、鮮やかな放物線を描いてシュートが放たれる。ボールはそのまま、ゴールリングに吸い込まれた。
  
 土壇場での再逆転。しかもスリーポイント。
 79ー77。残り時間1分30秒。

「まだ行ける! 攻めるよっ!!」

 美樹が声を上げる。
 私たちはひたすら前を向いて、走った。

 私も全力で走った。
 だって約束したんだ。桧山一尉に、絶対に優勝するって──。
 
 敵はルールぎりぎりの24秒までボールを保持して、時計を進めて行く。
 ようやくこちらにボールが渡った時には、残り時間は1分と数秒だった。

 シュート一本で同点、スリーポイントシュートで逆転。
 敵も固くゾーンで守って、速攻を許さない。時計の針が進んで行く。
 裕子が放ったスリーポイントは、リングに弾かれて敵に奪われた。

 敵は攻めずに時計を進めて、焦ったこちらのファウルを誘っている。

 大丈夫、まだワンプレイ残ってる。
 それに全てを賭ける。

 相手のシュートがボードに跳ね返って、味方の手に渡った。
 ラスト20秒、最後の勝負。

 敵はポイントガードを中心に、鉄壁のゾーンディフェンスを敷く。
 ワンプレイ、外したら負けだ。

 ボールが萌音から美樹に回った──けど、焦った美樹が姿勢を崩した。
 たちまち敵ディフェンスが殺到する。

 私はワープするように、美樹のカバーに飛んだ。 
 ボールは私の手に。でもパスもドリブルも塞がれてる。
 後5秒……!!

『頑張れよ、さくら。応援してる』
 
──絶対に勝つ! だって、一尉に約束したんだ……!!

 私は反射的にバックステップを踏んで、後ろに飛びながら、スリーポイントラインの外でシュートを放った。
 練習でも一度も試したことのない、フェイダウェイシュート。
 ボールは大きな放物線を描いてゴールに飛ぶ。

「行けーっ!!」

 タイムアップのブザーが鳴り響くなか、ボールはリングの中に吸い込まれて、ネットを揺らした。