敵のポイントガードにスリーポイントを決められた。76ー72。
 一瞬目が合った彼女は、私を貫くように睨んだ。

──そう、それなら……。

 味方が回してきたパスが、私に通る。
 私は敵のポイントガードの脇を突くように、ドリブルで迫った。
 敵ディフェンスが私を囲むように集まる。 
 私はペイントエリア前で大きく踏み切って、ジャンプして──シュートを放つと見せて、バックハンドパスに切り替えた。 
 ボールはノーマークの美樹へ。ボールを受けた美樹の細い身体が、しなやかに伸びた。

 マークを躱した美樹のスリーポイントシュート。76ー75。
 敵ベンチがタイムアウトをコールした。
 
「大丈夫、ひっくり返すよ!」

 美樹の声に、全員が「はいっ!」と声を上げた。

 残り3分。

 敵のリバウンド奪った裕子から美樹へパスが繋がったけど、コースを塞がれて美樹からボールが出ない。 

『味方をカバーできなければ、次に墜とされるのは自分だ』

 耳の奥に響く、桧山一尉の声。

 私は飛ぶように美樹の後ろに回り込み、スクリーンになってくれる美樹からボールを繋ぎ、ディフェンスを引き付けてからその背後にパスを突き刺した。
 ドンピシャで飛び込んでくる萌音。ステップを踏んだ萌音から、ボールがリングに向けて放たれた。

 76ー77。とうとう私たちは、ゲームをひっくり返した。

 残り2分。敵ベンチがたまらずタイムアウトをコールした。