シャワーを浴びながら、狭いユニットバスの中を見渡した。
 すぐ横に、洋式のトイレと洗面台が付いていて、洗面台には歯磨き用のコップとブラシも一組置いてある。

 あらためて、ここで一尉が暮らしているんだと思って、身体中が火照ってくる。

 それ以上に、リビングにいる一尉は着替の最中で、私は裸でシャワーを浴びている。いまさら心臓が暴れ回って、喉から飛び出しそうだった。

 視線を落とすと、ボディソープとシャンプーも置いてあった。
 誘われるようにボディソープのボトルに手を伸ばして、ノズルを押して、泡立ててみた。
 白い泡に鼻を近付けると、私を優しく抱きしめてくれた、一尉の匂いがした。

「おい」

 扉越しにいきなり、一尉が声をかけてきた。

「は、はいっ!」 

 見事に声が裏返った。

「服が乾くまで小一時間かかる、それまでここで休んでいくといい。ランドリーの上にバスタオルと、俺のシャツとトレーニングパンツを置いておく。良ければ着替えに使ってくれ」

「は、はい。ありがとう……ございます」

 嬉しい一方で、なぜか声がしおれてしまった。
 
 一尉は優しい。
 でもそれは私にじゃなくて、女の子には誰にでもこんなに優しいんだろうか。
 
 それ以上に、小桃さんが教えてくれたように、一尉がずっと一人を貫いているのなら、これほどの愛を独占した一尉の昔の恋人は、今どこで、何をしているのだろう。

 こんなにも愛し慈しみあった二人が、なぜ別れなければならなかったのだろう──。

『確かに、桧山さんはすごい人だと思うよ。でもすごすぎて、さくらが辛くなっちゃうと思う』

 萌音の言葉がシャワーの水音に紛れて、耳元をよぎった。