降りしきる雨のなか、夜の公園のあずま屋に駆け込んで、ようやく一息ついた。

 雨に閉ざされた公園には、私の他に誰も居ない。
 点々と灯る蛍光灯の明かりが、雨に煙りながら薄ぼんやりと辺りを照らしている。

 しばらくは雨脚も収まりそうにない。

 急に悪寒を覚えて、身をすくめた。
 私のトレーニングウェアは雨水が滴るほど濡れそぼっていて、インナーまでぐっしょり濡れている。
 身体を止めた途端、全身から体温が奪われるようだった。

 雨は一層激しく降ってくる。

 人気(ひとけ)のない公園を避けるのか、晴れの日なら幾人かは行き違う人の姿もなくて、ときおり公園の外を通り過ぎる車のヘッドライトが、一瞬闇を払って、また闇に沈んでいく。

 あずま屋の屋根を叩く雨音だけが、辺りを満たしていた。

 途方に暮れて、公園の入口を眺めたときだった。

 背の高い人影が、入口から入って来た。
 
 トレーニングウェアの上に防水のウィンドブレーカーを羽織っていて、その姿でこの雨の中を、その人はランニングしてきたのだった。

 顔はウィンドブレーカーのフードに隠れて分からない。でも一際目立つ、背の高い人影。

 桧山一尉──!!

 声を出そうとして、言葉が喉につかえて出てこない。
 茫然と立ち尽くす私に、桧山一尉は変わらないピッチで地を蹴りながら近付いてくる。
 そしてあずま屋に入って立ち止まり、頭のフードを上げた。

 精悍な、桧山一尉の顔。
 きっと会えると信じていた。

 桧山一尉は全身びしょ濡れの私の姿を、上から下まで眺めると、いつもの落ち着いた声で、言った。

「大丈夫か、さくら?」

 私は次の瞬間、一尉の胸に飛び込んで、すがりつくようにして泣いていた。