小一時間ほど並んで、ようやく私たちの番がまわって来た。
 体験搭乗のために3機の戦闘機が並べてあって、それぞれに案内役のパイロットが付いている。
 私は、桧山一尉が案内に付いている機体に振り分けられた。

 事前に小桃さんが連絡しておいてくれたのか、桧山一尉は私が訪ねて来たのを知っていたようだった。  

 一尉は私の顔を見ると、小さく頷いた。
 作業帽のバイザーに隠れて、表情はよくわからない。

 私の前の人がコクピットから降りて、私の番になった。 

 コクピットの横には小さなタラップが掛けてあって、それを上るのだけど、予想以上に──高い、コクピットまで3メートルくらいある。

 怖気付いた私に、低く落ち着いた声がした。

「よそ見をすると危ない。進む先だけ見ればいい」

 桧山一尉がタラップに足を掛けて、こちらを見上げていた。
 私はキュロットスカートだったけど、めちゃくちゃ恥ずかしくなって、慌ててコクピットに滑り込んだ。

 コクピットに入れば入ったで──狭い。    
 それ以上に、シートが後ろに寝過ぎていて、座るというよりほとんど寝そべっている感じだった。
 私は女子の中ではそんなに背の低い方じゃないけど、このコクピットに入ると、メーターパネルと左右の機器類に押し潰されそうで、前後左右がほとんど見えない。

 仰向けになって空を見上げるしかない私に、桧山一尉が顔を近付けてきた。

「これがフライトコンピューター、これが火器管制コンピューター、右手にあるのがスティックだ」

 何を言っているのかさっぱり分からないけど、ちょうど私の胸の上に桧山一尉の顔があるような感じで、私は顔から火が出そうだった。

「あ、あの……」

 私は勇気を出して、訊いてみた。

「桧山さんは、いつもこれに乗って空を飛んでいるんですよね」

「ああ」

 なんの感情も見せずに、当然のことのように答える桧山一尉が、何かとても不思議な生き物のような気がして、私は一尉の精悍な顔を、ただじっと見つめていた。