「私が?!」

 小桃さんは目と口をまんまるにしてから、とんでもないと両手をひらひらさせた。

「そんな、一尉に笑われちゃうよ。私はただの整備士だから」

 でも、私と萌音の視線に根負けしたように、「もう、しょうがないなあ」なんて、うなじのあたりを掻きながら、

「ええ、あなたたちの言うとおりよ。私は桧山さんが好き。──というより、もともと私、あの人の追っかけだったの」

 そして驚く私と萌音に、

「私ね、中学、高校と桧山さんの後輩だったの。3つ離れているから、同じ校舎で顔を合わすことはなかったけど」

 そう言って、照れくさそうに頬を染めた。
 萌音はそんな話が大好物だから、

「わー、素敵。じゃあ、その頃からお付き合いされてたんですか?」

 なんて、目をキラキラさせて食い付いてくる。

「なかなかそんなに上手くはいかなくてね。私は遠くから、あの人の姿を眺めていただけ」

 小桃さんは、溜息混じりに目を閉じて、

「大体、桧山さんには中学からの彼女がいたからね。ものすごく綺麗な人で、私なんて……」

 そこまで話して小桃さんは、はっと気が付いて、恐る恐る私たちに視線を巡らせたのだけど、案の定、期待に満ちて見詰めるポメラニアンのような私たちの瞳を見て、深々息を吐き出した。

「──絶対に秘密、だからね。こんな話が広まったら、私二度と桧山さんに口をきいてもらえなくなる」

 そして、うんうんと頷く私たちに、

「桧山さんは中学、高校とバスケ部のエースで、学校の外から追っかけが押し寄せるくらいモテモテだったんだけど、桧山さん自身は中1で知り合った彼女をずっと大切にしていて──」

 そして急に表情を曇らせて、言った。

「でもその人は医者の家の一人娘で、桧山さんが自衛隊のパイロットになると決めたときに、向こうの親御さんに無理矢理別れさせられてしまったの。それ以来、桧山さんはずっと一人。告白されても縁談を持ち込まれても、全部お断りしているそうよ」