「そうよね……」

 小桃さんは軽く溜息をつくと、私にこう訊いてきた。

「さくらちゃんは、彼とのことをどうしたいの? このまま彼が何もしてこなければ、彼のことが許せる?」

「許すも何も、私たち、付き合ってたわけでも何でもないし……」

 順番待ちの列で話すようなことじゃないけれど、基地祭目当ての訪問客たちは自分たちの会話や展示物に夢中で、小声で話す私たちに耳をそばだてるような物好きはいない。

 でも、あの日の出来事を思い出すと、今でも胸が苦しくなる。
 もしあのとき、桧山さんが通りがかってくれなかったら──。

「──大丈夫? 列から離れて、少し休もうか?」 

 私の様子に気付いて、小桃さんが心配そうに声をかけてくれる。

「大丈夫です……」

 そう答える私の左手を、萌音が何も言わずにそっと握ってくれる。

 そんな萌音に小さく頷いてから、私は自分で話題を変えた。   

「桧山さんも、あの戦闘機に乗っているんですか?」

 私は列の先で、訪問客たちが順番にコクピットに収まっている、群青色の機体を指差した。

「そうよ、F−2。アメリカのF−16を改設計した、日本の戦闘機よ 」

 小桃さんは、誇らしげに言った。

 群青色をメインに、翼の縁や胴体に淡いグラデーションを施した色彩だった。細身の見るからに俊敏そうな機体で、グレイに尖った機首が、獰猛な鳥の(くちばし)のように見える。

「桧山一尉の507号機は、別の場所で整備中だけどね。午後には一尉自身が展示飛行を行うから、それも見ていけばいいわ」

 小桃さんは、桧山さんや戦闘機のことになると、まるで自分のことのように誇らしげに話してくれる。

 それが見ていて気持ち良かったけど、私は少し気になって、訊いてみた。

「小桃さんは、桧山さんとお付き合いされているんですか?」