「せっかくだから、並ばない?」

 急に小桃さんが、声をかけてきた。

「今からイベントで、F−2のコクピットに体験搭乗できるわ。現役戦闘機のコクピットに座れるなんて、めったにないチャンスよ」

 私たちは小桃さんのお勧めで、ハンガーの前の人の列に並んだ。ハンガー前の人だかりはこの体験搭乗が目当てだったようで、搭乗待ちの列は長く伸びて、幾重にも折れ曲がっていた。
 私たちは、その一番後ろに並んだ。

「あれから、何もない?」

 小桃さんがさり気なく訊いてきた。
 今日ここに来た本当の目的は、哲也との件の相談だから。

「クラスでは目を合わせないようにしています。向こうも、私を避けている感じで……」

 あの日、自宅に帰ってから直ぐに、桧山さんに渡された電話番号に掛けてみた。
 桧山さんは「何か困ったことがあった
ら」と言っていたけど、とにかく誰かに相談したかったのと、永瀬さんが何者なのか知りたかった。

 私が電話をかけたら、呼び出し音が3回鳴った後に、若い女の人の声が返ってきた。

『はい、永瀬です。もしかして、さくらちゃんかしら?』

 桧山さんはあれから直ぐに、永瀬さんに連絡を入れておいてくれたらしい。

 簡単なやり取りの後で、永瀬さんは、

『せっかくだし、基地祭に来たら? 気分転換になるし、桧山さんも私も、そこなら来訪客とお話していても、誰にも(とが)められないから』

 そう言って私を誘ってくれた。
 一人で行こうか迷ったけど、結局萌音に全て話して、二人で行くことにした。