〈一生懸命やっていれば、きっとそのうちにいいことがあるよ。〉
 内広舞は興梠修一郎に言われた言葉が忘れられない。一生懸命やっていれば誰かが見ていてくれる、だから今まで自分がやってきたことが無駄じゃないんだ、そう考えるだけで仕事が楽しくなった。

 舞はスタッフルームやバックヤードにいる時もモニターで今まで以上に売場を気にするようになった。修一郎が来店する時間はお昼過ぎか閉店間際と大体決まっている。その時間帯にサービスカウンターやレジにいない時は今まで以上に頻繁にモニターを見る。修一郎の姿が写ると売場に出て小走りで周一郎の後ろから近付く。そして後ろから追い抜くと同時に〈こんにちは。〉と声を掛けるようにした。

 修一郎は最初、舞の行動に驚いた。突然どうしちゃったんだろう。自分に好意を持ってくれているなら嬉しい、悪い気はしない。只、〈小売店の女の子が自分に優しい言葉をかけるから好意を持っている。〉と早とちりするのは危ないオッサンだな。社交辞令だよな。そんな風にも考えた。