「 オジサンをからかってないよね。」

 内広舞にそう言った日の夜、興梠修一郎は舞から最初に話しかけてきた日の事を思い浮かべていた。
 修一郎は不自然にならないようにわざと舞のレジに並んだりはしない。舞のレジが空いている時に並ぶ。その日の夜は舞のレジが一番空いていたので並んだ。
 商品をスキャンした後も誰も並ばない。今夜は花火大会だ。花火大会が終わってからはお客も流れ込んでくるのだろうが、花火をやってる最中は店内はいつもよりかなり静かだ。
  突然、舞が修一郎に話しかけてきた。
「私、忙しくてお祭りにも行けないんです。」
 レジ部の責任感の舞は花火大会に行くパートやアルバイトが多い分、自分が出勤していたようだ。 修一郎はそんな舞に益々惹かれた。そして寂しそうに自分を見つめる舞の笑顔を見た瞬間、修一郎の心は舞だけでいっぱいになった。
「だけど一生懸命やっていれば、きっとそのうちにいいことがあるよ。」
 修一郎がそう言うと舞は嬉しそうに笑った。でも修一郎が言いたかったのは違う言葉だった。
「僕がお祭りにでも誘いましょうか。」
 本当はそう言いたかった。